言えない


「てことは、同い年?」


彼の表情がぱっと華やいだ。

同じ時代を生きられて、しかも同じ年に生まれたことをずっと光栄に思ってたから、すごく嬉しい。


「学校って今どんなことが流行ってんの?」


そういえば今彼は休学中だった。やっぱり学校が恋しいのかな。


「えーっとですね……」


すぐにでも教えてあげたいのにぱっとは思い浮かばない。学園の皆さんとあんまり交流がないことをこんなに悔やんだことはない。


「羽奈ちゃんがハマってたり好きなことは?」

「それは……」


私のお気に入りはあなたが演じた映画のあのシーン。あの雑誌のあの表情。

去年のドラマのあのセリフ。

歩き方も笑顔も。

エイル君のすべてに魅了されて仕方ないんです。


だけど、嫌いなのはそれを誰にも言えない自分。結局何も言えなくて、言葉に詰まった。


「ごめん、一度に聞きすぎたね。羽奈ちゃんのところに飛ばされたのにはなんか理由があんのかなって思ったから」


返事もせず感じが悪いはずなのに、謝ってくれるエイル君はやっぱり世界一優しいし大人だと思う。


「でも俺のことには無頓着でいいからね。君はどっちかっていうと巻き込まれた側だから」


優しい笑顔で言われて胸がきりりと痛んだ。


「あと、この状況はできればまだ誰にも話さないで?」

「それって周りに相談できないってことですか?」

「まぁそうなるかな」

「そんなことできるでしょうか……」



だって今すぐお母さんのもとへ走りたいし、ネッ友のちょめちゃんにDMしたい。

このカオスな状況をひとりで抱えろだなんて無理だと思う。



「芸能界ってちょっとしたことが周りを巻き添えにする世界だから、詳しいことがわかるまではふたりだけの秘密にしたほうがいいと思うんだ」

「そんなこと言われても……」


不安すぎる。

不安しかない。


「今俺たちは運命共同体だから。ね?」



唇に人差し指を押しあてて、思わせ振りに呟いた。そんなことされたらオタクは……。


「……もちろん秘密にします」


どこまでも従順な下僕になります。

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