名前を認知されました

「俺のこと知ってる人なら期待はずれでがっかりすると思ったんだけど」


「なるほど、そういう考え方もあるんですね」



そんなことにまで気をくばっているなんて知らなかった。がっかりするどころか更に好感度があがりました!



「それにこれだと外歩いてても写真撮られたことがないし、めんどくさい女の子たちを遠ざけるのにも都合がいいし。そういうのって性格悪くない?」


「そんなこと少しも思いません」



だって誰にでもモテるって大変そう。人気者にしかわからない悩みはたくさんあるんだろうし。


「まるで全部がお守りみたいですね」


言わなくてもいいことを言っちゃったかな。確かにそんなことを言われたら反応に困るよね。でも固かった彼の表情は、予想外なことになぜかほろりと砕けた。


「なんていうか……調子狂うな。参りました」

「なに?どうしたんですか?」



びっくりした。空気の読めない自分にこんなふうに柔らかく笑ってくれるなんて。

それに「参りました」って言葉はオタクが推しに捧げる言葉なのに。



「試してごめん。君が芸能人に興味があるのかどうか、知っておきたかったんだ」

「……そうだったんですね」


そうか、だから反応を見てたんだ。


「お姉ちゃんのせいで逆に冷静なんだね」


そんなんじゃないのに……エイル君の安堵した顔にちょっと傷ついた。


「君のことも教えてよ。そういえば名前まだ聞いてなかったね」


推しに名前を尋ねられる日が来るなんて思いもしなかった。

生きててよかった!



「こっ、紺野こんの 羽奈はな、コーコーニネンデス」

「羽奈ちゃん?」

「……ハッ、ハイ!」

「はじめまして」


ヨバレタ。

ナマエ……ヨバレタ。


なんで静かにこっちを見つめてくるんだろう。間が大人すぎて息がもたないよ。

名前を認知されただけで、もう天に召されそう。

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