なちゅエイル
「それほんと?」
「ほっ、ほんとです!」
顔を覗き込まれて壊れたおもちゃかと思うくらい、何度も首を縦に振った。
「マジかぁ。お姉ちゃんいなくてよかった」
彼は返事を聞くと、胸のなかの空気を全部吐き出すみたいな盛大な溜め息をついた。
「どうしてですか?」
「だってこれコンビニに行くときの格好だから」
無地のスウェットの肩口を両手でつまんでひっぱっている。
彼の肌になじんだ感じがして着心地がよさそうだな。生まれ変わったらあれになりたい……。
呆けていたら、エイル君は首をかしげて今度は足元をつんつんしてみせた。
「二枚履きもやばくない?」
「……二枚履きなんですね」
言わなければわからないのに教えてくれるなんて、もしかしたら普段は天然なのかな。
三万円以下のものを身につけているのを見たことがないのに、そんな素朴な一面もあったんだって感激してしまった。
「靴下可愛いですね」
言ってしまって思った。なんてつまらない返しだろうって。
「そう?これ普通に引くやつだと思うんだけど」
「なんで?どうしてですか?」
「だってまるでガキじゃん」
そんなふうに突き放されると心が痛む。
知らない彼を知ることができてこんなにドキドキしているのに。
大好きな気持ちが溢れてるんじゃないかとずっとそわそわしているのに。
「お姉ちゃんからエイルのこと聞かされてる?」
「はい。クールでおとなっぽいし、すごくかっこいいって」
「他には?」
「えーと、役者さんとしてもモデルとしてもひっぱりだこなんだよって言ってました」
隠れた努力家で自己肯定感も高くて、自分の魅力をよくわかってる。
だからこそみんなが求めているものを瞬時に理解して提供することができる人だって私知ってます。
「あとファッションリーダーらしいですね」
「うん、服は好きだよ」
そこでエイル君は私の顔をしげしげと見つめ返した。
「だからこそこういうの一枚でイメージって崩れると思ったんだよね」
「そうでしょうか……私にはよくわからないです」
だって、要らないものならエイル君の手元にはないはず。
それを持っているってことは必要な物なんじゃないのかな。
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