エイル君にしか見えなくて

「びっくりさせてごめん。なんでこんなことになったのか俺もよくわかんなくて」

「ううん。無事みたいでよかったです」

「君こそ後頭部平気?」



エイル君に「君」呼びされたうえに心配までされてしまって、感激が勝るあまりに痛みなんか感じない。


地味を装っていても都会的な香りや、前髪からのぞいたメガネ越しの優しい瞳は隠せていない。


「ありがとうございます。でも気にしないでください。汚れてますし」


髪を振り乱して息も絶え絶え帰宅した自分が急に恥ずかしくなってきた。

前髪だけでも直したいのに緊張のあまり何もできない。



「汚れてるようには見えないけど」

「でもさっき前転しちゃって」

「前転って何やってたの?」

「ぶ、文化祭でやるダンスの練習を少々……」



あなたの番組をリアタイしたくて猛ダッシュしていたんですなんて、言えるわけがない。


「とにかく枯れ葉が刺さっててもイモ虫が紛れてても特に不思議じゃないんです。秋ですし」

「ふははっ。なにそれ!」



真剣に訴えたのに大笑いされた。

ラフな格好のせいか、ふいに普通の男の子に見えてしまう。エイル君ってこんなふうに笑う人だったんだ。


彼はメディアの露出も少ないし、私生活も謎に包まれている。ミステリアスだからこそもっと知りたいと思わせるアイドル。


大人っぽい側面しか知らなかったから、子供みたいな無邪気な顔にドキドキしてしまう。



「全然大丈夫。きれいだよ、髪」

「にぇっ?」


みとれていたせいで変な声がでてしまった。顔が熱いし、恥ずかしすぎて穴があったら入りたい。

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