生徒会長から告白されました

でもそんなこと、今ははっきりいってどうでもいい。とにかく一刻も早くここを出たい。家に帰りたいの!

それなのに。


「紺野、これ」

「はい」


私の焦りなんか微塵も伝わっていないのか、彼はさっき提出したばかりの書類を差し出してきた。


「もらったばかりで申し訳ないんだけど数字が間違ってる」

「すっ、すみません!」


今年度の文化祭の予算案だ。

ライブの当落通知にそわそわして確かに上の空だったかも。

なんでこんなミスをしちゃったんだろう。もっと緊張感を持って資料を作っていたら、今頃正門を出られていたのに。


「次の会議までにちゃんと直しておきます!」


このままじゃ間に合わない。どうしよう、強行突破しかないのかも。

目を合わせずにお辞儀をしてくるりと背を向けたのに、なぜか腕を掴まれた。


「……なんですか?」


びっくりして問い返すと彼は少し顔を赤らめてその手をぱっと離した。


「いや……何か悩んでるのかなって」

「私が?」

「いつも心ここにあらずというか」

「それは……」


やっぱり。

集中力散漫なのがバレていたんだ。


「他校に彼氏がいるってほんと?」

「何の話ですか?」


きょとん。

しっくりくる言葉が、それしか見当たらない。


「束縛のひどい彼氏が待ってるから告白されないようにいつも早く帰るんだって噂になってるよ」

「えっ?」


まさか女子の間では碧葉君と。

男子の間では他校の男の子と……って憶測が飛び交ってるってことだろうか。


「違うんです。集中力が足りていなかっただけで」

「そんなふうに振り回されて幸せ?」

「それは……」


それは逆です。正しくは《推しに振り回される毎日こそが幸福》です。

できるなら、声を大にしてそう言いたい。


「その反応からするとほんとなんだね。だから会議中もそわそわしてるんだ」


碧葉君の真剣な表情がちょっと怖い。


「俺には相談できない?」

「ありがとうございます。でも……」


気持ちは嬉しいし、布教は大事。

でもファンでもない人にそれを無理強いするのはやっぱりマナー違反な気がする。

徹夜の覚悟もできていないと思うし。


「俺ならそんな顔させないのに」


そう言われて自分の顔を覆った。

いろいろと余裕がないのはほんとうだけど、そんなにひどい顔してるんだ。


「そいつなんかやめて俺にしなよ」

「……今なんて?」


今エイル君のことを「そいつ」呼びしました?


「好きなんだずっと、紺野のこと」

「す、すき?」


失礼な彼の態度に憤慨していたはずなのに、頭のなかがまっしろになった。



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