埼玉県秩父市-①

国道254号線、川越街道。日本橋から埼玉県川越市を結び、さらには長野県松本市まで通っている道路だ。

ここを少し逸れると国道463号線・浦和所沢バイパスに入る。埼玉最大の都市であるさいたま市の浦和と、埼玉西部の最大都市である所沢市を結ぶ幹線道路だ。

私は国道463号線に入り、所沢方面へと進む。


「所沢方面に行けば秩父方面への道路がある。とりあえずはそこに入るとするか」


埼玉県秩父市。埼玉の最西端に位置し、山梨県や長野県と隣り合わせている。私はその街で生まれ、その街で育ち、そして東京に出ていった。


ゆっくりとスロットルを開ける。一速。すぐに唸る。「二速に変えやがれ」。私のCT125・ハンターカブが江戸っ子べらんめぇ口調で私に楯突く。

二速。左足のつま先にあるペダルを踏む。


ガコン!!

心地よい音を奏で、エンジンの唸りは消え、振動も収まる。

ガコン!!

ガコン!!

一気に四速まで加速。

この快音がたまらない。私はこの音を聞くためにカブに乗っているのだ。


埼玉県の南の端、新座市。私はここで暮らしている。

とはいえ、新座市にある駅はハッキリ言って使えない。JR武蔵野線が通っているがよく止まるし、東武東上線という路線もあるがアホみたいに混む。

なので私は通学時にはバイクを走らせて、東京メトロ・和光市駅まで行くのだ。

そんな新座市を抜けて所沢市へ。所沢市も抜けて飯能市へ。

所沢市は埼玉が「埼玉」である西の端であろう。ここより西は田舎だ。先程、秩父を「普通の街」と言ったがあれは嘘。田舎だ。田舎だから、私は東京に出た。


西武鉄道・飯能駅をくぐり、私は山道へと入る。埼玉県道70号線。そこから逸れて埼玉県道53号線。入間川にひたすら沿って行く道。私はこの道が好きだ。

時刻は16時。夕焼け色に染まる入間川と、走る度に近づいていく雲。夕日が蒸気を照らす。走れば走るほど、雲を掴める。雲をこの身で抜けられる。私はこの道が好きだ。


しばらく進むとコンビニが見える。やけに駐車所の大きいコンビニだ。道路を挟んだ向かい側には学校がある。

この先、秩父市の手前までコンビニが無い。ここで食料供給とトイレ休憩。

「おい、俺ァまだ走れるぞ」というカブの言い分を他所にエンジンを切り、コンビニへ。


「これと、ハッシュドポテトひとつ」

300mlのコーラと、ハッシュドポテト。貧民にはおあつらえ向きのセット。

ハッシュドポテトを頬張り、コーラで流し込む。時刻は16:30。日が落ちてきて、風は少し冷たくなる。

寒さに少し凍えながらアツアツのハッシュドポテトを頬張り、そしてコーラで冷たくする。新陳代謝をシゴキあげるこの瞬間がたまらない。


名栗、という場所があるそうだ。埼玉県飯能市。

名栗湖という湖が有名らしいが、言ったことは無い。

先程の埼玉県道70号線を逸れ、53号へ。もうすっかり暗くなり、車も通らなくなる。


「準備はいいか?危ねェぞ汐留さんよォ」


「この汐留波留華が、危険や安全の理由から旅行を断念する程に老いているように見えるかね?」




さて、夜の峠を越えよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る