第7話 長い人

 怪獣さんは、お絵描きが大好き。おもちゃや本を買ってくれとも、絵本を読んでくれとも言いませんが、ひたすら「おえかきちょう」を買ってくれとねだる子でした。一番凄い時期には、週に一度は5冊入りのお絵かき帳を買わされておりました。


 最初にお絵描きに目覚めたのは1歳くらいの時だったでしょうか。その頃は他の子と似たような絵を描いていました。2歳頃になると、全身の人物画を描くようになります。顔も体も手足もすごーく長い人。この「長い人」を描いていた期間は結構長かったです。

 

 転勤族だったため、保育園の転園も多かったのですが、転園先の保育園の先生が一言。

「怪獣ちゃん(仮)は、凄い絵を描きますねえ」

 はあ。まあ、ちょっと画風が独特ではありますよね。と、思っていると、

「怪獣ちゃんの絵は素晴らしいです。お母さん、将来、彼女を美大に進ませてあげて下さいね!」

「……」

 この長い人の絵が? 美大に通用するとな?


 この先生、絵の先生だったらしく、息子さんも美大に進学していたとか。……美大……お金貯められるかしら……。


 

 幼稚園の参観日。その日は、怪獣さんの大好きな工作の時間でした。

「今日は、みんなの顔を作りましょう。こうやって、色画用紙や色紙を切って、のりで貼って作ります」

 そんな授業内容。


「じゃあ、今から、顔の色を先生が見せます。自分はこの色だな〜と思う人は取りに来てね〜」

「はーい」

 薄い肌色から見せる先生。一番に取りに行く怪獣さん。そんなに色白か? お前。

「じゃあ、次、髪の毛の色ね。真っ黒の人〜?」

「はい」「はい」「は〜い」

「じゃあ、ちょっとだけ茶色の人〜?」

「はーい」「は〜い」

「じゃあ、もっと茶色の人〜?」

「はい」「はーい」

「……」


 皆が次々と取りに行く中、怪獣さんだけ取りに行く気配もありません。先生困惑。

「お前の髪は何色やねん?」

 先生の心の声が聞こえるようです。

 半ばヤケクソのように、

「じゃあ、ピンクの人〜?」

 と先生が言うと、

「はいはいはい、はあーい!」

 目をキラキラして取りに行った怪獣さん。母は、いつそんな髪色の子を産みましたか。


 できあがった顔を、みんなで後ろの壁にはってもらいました。みんなワイワイガヤガヤそれを見た後、父兄もじっくりと見ることができました。うちの怪獣さんだけ方向性を間違えているとしか言いようがない顔をしておりました。目にも星が入っていて、アニメキャラのようでした。


「怪獣ちゃん(仮)、おもしろすぎる」

 こうして父兄にも一目置かれる存在になりました。

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