メガネ屋のあの子

「おメガネの方、ご充分にご覧になりましたか?」

 丁寧過ぎる日本語が反って好ましかった。

「これにしようと思います」

この天然らしいところが“あの子”に似ている。

 “あの子”とは高校を卒業して以来、連絡を取っていない。振られたからだ。

「おメガネ、お造りするのに1時間ほど必要ですがよろしいでしょうか?」

 2回重なった“お”も何故か可愛い。

「じゃあ、少し外に出てます」

 もう日が強い季節だった。行く当てもなく道を歩くと、彼女が“あの子”本人であるような気がし始めた。

 しかし直接聞くのは恥ずかしい。

 そこで冗談交じりに言って誤魔化すことを思いついた。

「気色の悪い質問ですが、下の名前をお聞きしても?」

「はい。〇〇と申しますが」

 “あの子”じゃない。

「高校時代の友人に似ていたんです。でも全然違いました」

 彼女は嫌な顔をしなかった。

「すいません。ぼくの目が悪かったんです」

 ぼくがそう言うと彼女は顔を赤くしながら笑ってくれた。

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