第15話 トモガラ

 二人が出会ったのは小学校五年生の時だった。それまでは何度か同じクラスになったことがあるが、特段仲がいいわけでもなく、休み時間もほとんど口を利かなかった。クラスの中でもあまり目立っていなかった春を気にも留めていなかった。

 だが五年生の新学期が始まってすぐ、二人は最初の席替えで隣同士になった。その時は何とも思っていなかった。四方田は他に友達がいたし、わざわざ春と仲良くする必要は無かった。

 だがある教科書を忘れた日のことだ。四方田は隣の春に頼み込み、教科書を見せてくれるようお願いした。

 春は快く承諾し、机を近づけて、教科書の半分を四方田の机の上に広げた。するとその教科書の奥、引き出しの中に目が留まった。少年漫画の表紙が見えたのだ。

 四方田はすかさず、言った。


「それ漫画か」


 すると春はすぐに隠す。学校に漫画を持ってくることは校則に反していた。


「別にチクらねぇよ。俺も漫画、好きなんだよね」


「そうなの?」


「結構、読むぜ。俺の友達とかはあんまり読まねぇからよ。漫画で語り合える奴がいないんだよ」


 すると春はその漫画を少しだけ、引っ張り出した。


「それ知ってるよ。俺も読んでる」


 四方田は授業中、小さな声で興奮気味に言った。


「これ面白いよね」


 気が付いた時には授業そっちのけで、その漫画の話に花を咲かせていた。それからだ、席が隣になった二人は様々な漫画の話で盛り上がった。

 次第に休み時間も二人で話すことが多くなり、四方田はいままでの友達の誘いを断るようになっていった。趣味が合い、相性もあった。

 だが四方田に対して、引っ込み思案だった春は他にあまり友達がいない。クラスには他に漫画を読んでいる奴もいると思うが、そう言った連中に自分から話しかけにいくタイプではなかったのだ。


 二人が仲良くなり、数か月が経つ。その日は定期的に行われる席掛けがあった。

 その席替えで二人の席は離れてしまった。だが春の席は四方田の友達の隣だった。それなら都合がいい、休み時間は二人と同時に喋ることが出来る。

 四方田はそう思って安心した。

 だが事件は翌日の朝に起こる。教室に入ると、春の近くで人だかりが出来ていた。やたらと盛り上がっている。

 四方田は自分の席にランドセルを置き、遠目でその様子を見つめていた。すると四方田の友達が春の漫画を持っているのが見えた。

 それに対してクラスの女子たちが騒いでいる。


「それ持ってきちゃダメなんだよ」


 という女子のうざったい高い声が聞こえてきた。


「何があったんだ?」


 四方田が人だかりの中に入っていくと、友達が状況を簡潔に説明する。


「こいつが漫画持ってきたからよ」


 友達は漫画を持ち上げて言った。

 春を見ると、俯いている。いまにも泣きそうだった。四方田の友達と席が隣になり、せっかく新しい友達ができるチャンスだったのに、これではクラスの悪者だ。春はいままで仲良くしてくれた四方田の顔を見ることが出来なかった。


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