4-6.生まれた決意
『――櫂!やべーことんなってんぞ!!』
翌週のある朝、寝惚けた頭で電話に出ると、何やら慌てた声で騒ぐ祐貴。
『……え、なにが?』
『何がじゃねーよ!B.W.DのSNS開いてみろって!』
どうやら只事じゃないらしい。一気に目が覚めて電話を切り、慌ててSNSを開くと…………ん?なんだこれ。
B.W.Dのアカウント――最新投稿のコメント数が異常に多い。多いどころかこれは……
「……炎上……?」
コメント欄をタップしてみると、一気に顔から血の気が引いた。
『不倫はマジでない』
『KAIのイメージ変わった』
『18歳差はさすがに引く』
トレンド欄を開くと……
#BWD
#KAI
#不倫疑惑
#垣内ゆり子
#18歳差
#証拠写真
「……証拠写真?!」
なんだそれ。慌ててスクロールを繰り返すと、出てきた一枚の画像。
……垣内さんが俺の頬に触れている写真だ。
更にスクロールしていくと、もう一枚の画像が目に留まる。
「……うーわ……こえー……」
思わず声が出る。……飲み屋の入口で垣内さんと親しげに笑い合っている写真だった。
どうやらこの2枚の写真は、それぞれ別の一般の人が撮ってネットに拡散したものらしい。
デビュー前にさくらとのスキャンダルを撮られたとき、松本さんが言ってたことを思い出す。
“SNSに流されなかっただけラッキーだったと思え~。今の時代、流されたら一発アウトだぞ”
「……これもう、アウトじゃん」
この時俺は、心底痛感した。
まじでここは、とんでもなく怖い世界だ……と。
――くだらねー不倫疑惑なんか掛けられて、俺は騒動が落ち着くまで活動自粛を命じられた。
松本さんには“またかよ……”と叱られることを覚悟してたけど、“垣内さんのあの距離感は業界内じゃ有名だけど、一般の人が見たら誤解されるのも無理ない”と言ってフォローしてくれた。
垣内さんサイドからも“噂が立ちやすい旬の人気アイドルに気軽に近づいてしまい申し訳ない”と謝罪があったそうだ。
ちくしょう……。メンバー達にも迷惑をかけてしまって、情けない。どーして俺はこうもスキャンダルに見舞われやすいのか。
やっぱり俺の覚悟が足りないからなんかな……?
それとも、知らねーうちに誰かに恨まれるようなことでもしたんか……?
活動自粛になってずっと家にいると、他に特にやることもねーからついいろいろネガティブな方に考えてしまう。
SNSの噂話なんてくだらねーと頭では思ってんのに、無性に世間の声が気になってついネットを開いてしまうから……我ながらやべーなと思う。
『KAI 不倫疑惑』
と、検索をかければズラズラと表示されるネット掲示板。開いた瞬間に、やっぱり後悔した。
:一途そうなのに不倫とかww
:えー?前からヤリ○ンって噂あったじゃんw
:歳上好きそうだなーとは思ってたけど、まさかの垣内ゆり子w BBAすぎワロタw
ひでぇ書かれようだ。俺のことなんかまともに知りもしねーくせに、あることないこと書かれてる。
…………ん?
嫌気が差しながらも、何かに取り憑かれたように掲示板のコメントを読み漁っていると、気になるコメントがちょこちょこ目に入った。
:事実かどうかも分からないのに好き放題言うのはよくないと思います。
:KAIくんは不倫するような人には思いません。
:彼だって人間です。酷いこと言わないでください。
……この人、いろんなコメントに反論してくれてる。
ファンの子かな?こんなところでも俺を擁護してくれる子がいるんだなぁ、なんてちょっと感動して、何の気なしにそのコメントの投稿者IDをパッと見た途端………俺の手は完全に止まった。
“ID:Cherry Blossom”
……まさか………。
こんな見えないところで、さくらは俺を守ろうとしてくれてたんだ。俺のために闘ってくれてんだ。
「はは……、ははは……っ」
なぜだか急に、笑いが込み上げてきて。
同時に、鼻の奥がツーンとして泣きそうになってる俺。
「さくら………………」
この瞬間、俺の中である決意が生まれた。
俺はすぐさまネット掲示板を閉じ、電話の発信ボタンを押していた――
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