4-7.新たな一歩




「――SAKURA! Did you read the news!?(さくら!ネットニュースの記事読んだ?」



 ある朝、学校に到着すると、ジェシカが私の元に駆け寄ってくる。


「Why? Did something happen?(なんで?何かあったの?)」


 前の晩、遅くまでネットを開いていたせいで、今朝は寝坊した。家を出るまでバタバタしていたし、ゆっくりスマホを開く時間もなかったから、まだニュースも何も見ていない。


 私の問いにジェシカはちょっと呆れたように肩をすくめ、ネットニュースの記事を見せてくれる。



「I'm so shocked...(ショックだね……)」


 海外のエンタメニュースを扱っているそのサイトのトップニュース、写真付きの大きな投稿に私はフリーズしてしまった。




「……うそでしょ……?」


 記事のタイトルを読み、無意識で日本語が漏れる。




《 B.W.DのセンターKAI、来年末でグループ卒業へ!》



 頭が真っ白で上手く理解ができない。

 うそ……KAIが……B.W.Dを辞める……?



 数カ月前、SNSで拡散されたKAIの不倫疑惑。初めて二人の写真を見た時、私は不倫ではないはずだと確信した。


 少なくとも、櫂はそうゆうことを器用にできるタイプではないと知っていたし、もし噂が事実だとしたら、きっと安易に写真に撮られるようなことはしないだろうと思った。本気で彼女を守ろうとするだろう……私の知っている櫂は、そうゆう人だ。



 そもそも片方の写真は、どう見たってただ談笑しているだけにしか見えなかった。


 もう1つの写真は……垣内さんが櫂の頬に手を触れているそれを見た時は、正直少し複雑な気持ちにはなったけれど。



 垣内ゆり子さん──昔、よく櫂の家で一緒に観たDVDを思い出す。垣内さんは、櫂の一番好きな映画に主演していた女優さんだった。


 櫂もよく『この女優さんの芝居は引き込まれる』と言ってたし、私も強く共感していた。



 その騒動がかなりの大事になっているのはSNSを見ていればよく分かった。ネットの掲示板にもKAIの不倫疑惑の話題が溢れていた。


 毎日毎日、増え続ける否定的なコメントを読んでいたら、いてもたってもいられなくなった私。



 こんな見えない場所でこんなことをしたって、櫂が気付いてくれるわけじゃない。別に誰も見ていないかもしれない。こんなネットの世界なんて、どうでも良い世界なんだけれど。


 それでも、私のコメントを見て誰か一人でもKAIのことを悪く言う人が減ってほしいという想いで、毎日反論を続けた。




……そんな日々の中で発表された、KAIの卒業。


 卒業なんて表現をあてがわれているけど、本当はあんな疑惑を掛けられて辞めさせられることになってしまったのかな……?


 そうだとしたら、KAIはどんな気持ちで今過ごしてるんだろう。想像すると居た堪れなくて、胸が締め付けられる想いだった。



 けれども、そんな私の想像は……どうやら違っていたらしい。


 その日の晩(時差があるから米国での時間だけど)、B.W.DのファンクラブにKAIから発表された公式コメントを読んで……


 私の心はジーンと深部まで温かく、安堵と誇らしさに似た気持ちでいっぱいになった──





――――――――――――


 ファンの皆さんへ


 驚かせてしまってごめんなさい。


 報道にあった通り

 グループが丸5周年を迎える来年末で、

 僕はB.W.Dを卒業することに決めました。


 デビューから今日まで

 グループのために全力で走り続けて来て

 貴重な経験も沢山させてもらいました。


 そのすべてが僕にとっては

 すごく刺激的で濃密な時間でした。


 でも、いろんな活動の中で

 僕の心に違和感が生まれてきました。


 活動の幅が広がるごとに

 余計な悩み事も増えました。


 このままで良いんだろうか?

 これが大切な人と離れてまで

 本当にやりたかったことなのか?

 

 そうゆう想いが沢山積み重なってきて

 これ以上、芸能活動を続けていったら

 自分はダメになると思いました。


 応援してくれたファンの皆さんには

 本当に、本当に申し訳ないです。


 ここまで育ててくれたマネージャーや

 グループの皆とも沢山話し合いました。


 でも皆、最後には

 僕の気持ちを尊重すると言ってくれました。



 卒業後は、グループのダンスの振り付けと

 新人の育成を担当させてもらいます。


 表舞台に立つ機会は減りますが、

 これからもB.W.Dと共に成長できるよう

 僕らしく頑張ります。


 5周年まで、残り1年ちょっとですが

 その日まで皆さんへの恩返しの気持ちで

 目の前の仕事を全力で頑張ります。


 感謝を込めて。



KAI


――――――――――――

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