3-19.矛先
――世の中には、俺らが到底理解できないようなやべー奴らが沢山存在する。
特にこのネット社会においては、匿名を良いことに平気で人を傷つけるような暴言を吐く人間が山のようにいて、前述したようなやべー奴らではない普通の人たちですら、気付かぬうちに他人を傷つけている。
俺らみたいな芸能人は、その標的になりやすい。仕方ないなんて言葉で片付けていーもんでもねーけど、ある程度は仕方ないのかもしれないと今は思ってる。
人気商売ってのは話題にされなくなった時が本当の終わりだとも聞くし……。だから俺も、デビューしてからは、誰に何を言われようが気にしないと決めていた。
……でも、その矛先が自分の大切な人に向けられるとなると、話は別だ。
『――さくら?どうした?』
ビデオ通話中、浮かない顔をしてるさくらに気付く。俺の問いかけには首を横に振ってるけど……明らかにテンションが低い。
『ちゃんと話してくんなきゃ分かんないって、前も言ったっしょ?』
さくらは困った顔をしていたけど、躊躇う素振りを見せつつもメモ帳に文字を走らせ始める。
『ネットにいろいろ書かれてるの、見ちゃった』
あぁ……そんなん、さくらが気にする必要ないのに。
『別に俺は気にしてねーから平気だよ?』
『ち、ち、ちーがくて……』
また黙ってしまったさくら。
……もしかして?
『何?さくらのことも書かれてたの?』
聞くと、コクンと頷くさくら。
あの日から外では一度も会ってない。学校でも一緒にいないように徹底してる。だから写真を撮られることはないはず。じゃあ……何を書かれてんだろ……?
『あ、あーとで……お、お、おーくるね……』
『うん。まぁでも、そんなん気にしなくていーからな?』
電話を切って数分後――さくらから送られてきたリンクをタップする。
とあるネット掲示板の1ページだった。
:KAIの彼女も宝華学院でしょ?
:そう、一年の秋ぐらいから付き合ってるっぽい。
:可愛いの?
:顔は可愛い。細いしお嬢様系。
:男ウケしそうな感じだよww
:あれ可愛いか?せいぜい中の上ってとこだろw
読みながら、心臓がバクバクしてくる。
:なんか障害ある人って聞いたけどw
:うん。精神的な病気?らしい。人と話せないって
:前一回、貧血みたいになってんの見たことある
:どうやって会話してんの?
:メモ帳使ってるよww
:へー大変。KAIも苦労してんね
:変なのに捕まって可哀相w
心無い言葉は続く……。
:どーせすぐ別れるっしょww
:KAIの相手はトップモデルか有名女優希望!
:分かるwふさわしい人と付き合ってほしいw
:えー、むしろ誰とも付き合わないでくんなきゃ推せないんだけどー
読み終わって、俺は再びビデオ通話の発信ボタンを押した。
……でも、さくらは出てくれなかった。
『俺のせいでごめん』
『また明日電話しよ』
『おやすみ』
連続で送ったLINEは、その夜既読にならず。
この世のどん底に突き落とされたような胸の痛みを感じたまま朝を迎え、俺はその日の撮影に向かった――
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