3-8.久々の……



――週末……櫂が出演するLIVEに行った。



「すんげーな、櫂センターじゃん」

「やばいね、別人みたい!」

「櫂くん……かっこいいね……」



 祐貴くん、麻未、里帆ちゃんも一緒に来た。光ちゃんは予定があって来られなかったみたい。


 

 初めて見るダンスLIVE。薄暗い会場内で、聞いたことのないような英語の曲が大音量で流れている。


 登場するや否や、ステージの中央――“センター”と呼ばれる位置で、音楽と一心同体となって踊っている櫂。



「す、す、すー……ご……い……」



 つい独り言が零れるほどに、ステージ上の櫂はキラキラと輝いていた。素人目に見ても、このステージ上で一番ダンスが上手なのだと分かる。


 以前、まだ櫂と付き合う前に一度だけ、公園で踊っているのを見かけたことがあったけど……まさかここまでの才能の持ち主だったなんて……。



「きゃ~~~~~!!!」

「KAIく~~~ん!!!」

「本物めちゃくちゃかっこいいね!!♡」



 周りの女子高生らしき可愛い女の子たちの叫び声が響く。




 あぁ……なんか……別の世界の人みたいだなぁ。



 最近学校でもずっと感じていたけど、やっぱり櫂って凄い人なんだと改めて思い知る。


 かっこいいし、優しいし、おまけにダンスがこんなにも上手い。人を魅了する何かを持って生まれた人なんだ。



……対する、私は……?



 そもそも上手く人と話すこともできない。知り合い以外とは、まともに会話すらできない。


 普通ですらない私って一体……。




「……っはぁ……、はぁっ、」


 ダメだ……気持ち悪くなっ……



「え、さくら?!大丈夫?!」



 麻未の大きな声。心配そうに私を見る3人の顔が、少しずつ霞んできて……私はそのまま、意識を手放した――







─ 櫂 side story ─



――「おい!急病人だ!スタッフ、手伝って!!」



 曲と曲の合間に客席から聞こえてきた荒い声。どうやらお客さんの誰かが倒れたらしい。バックステージからはよく見えなくて、心配しつつも水分補給をし、俺は再びステージへと上がった。




「おつかれっした~!」

「お疲れ様でした」

「いやぁ~、KAI人気半端なかったわ~。笑」


 LIVEが終了し、同期のダンサー達とシャワーを浴びて着替えて、一息つく。



「そういや、誰か倒れてなかった?!」

「あぁ!俺見たよ!お嬢様っぽい可愛い子だった!」

「…………」


 お嬢様っぽい……?なんだか嫌な予感がする。



「男女で来てたよな?」

「そそ、確か男が1人であとは全員女子だった」

「男の髪がすげー色だった気がする。笑」

「………え?!」



 慌ててスマホを開くと……祐貴からLINE。



『さくらちゃん倒れた』

『控室みたいなとこいる』

『終わったら電話して』




「――ごめ、俺行くわ」


 祐貴に電話を掛けながら、俺は控室へと走った。





――いくつかある控室のうちの一部屋……救護室として使われていた部屋を祐貴から教えてもらい、飛び込むような勢いで中へと入る。



「さくら?!」


 さくらは長椅子に横になって、眠っていた。



「櫂、おせーよ!笑」

「おつかれさま~!LIVEめっちゃすごかった~!!」

「櫂くん、かっこよかったよ……」


 祐貴、大野、山口が順に言う。



「さくらは……大丈夫なの?」

「あぁ……、人が沢山いたからかな?歓声もすごかったし……久々に発作起きちゃったね」


 さくらの髪を撫でながら、優しい顔で言う大野。



「そっか……。最近大丈夫っぽかったから気ぃ抜いてた。誘う時もっとちゃんと考えればよかった……、配慮足りなくてごめん」


「しょうがないよ……、さくらちゃん、すごく楽しみにしてたもん……」


 山口が心配そうに俺を見ている。



 俺は眠っているさくらに近づくと、大野が場所を空けてくれた。しゃがんで頬を撫でると、冷や汗でもかいたのか、頬が少し湿っていた。



「さくら、ごめんね」


 そういえば、久しぶりにこんなにまじまじとさくらの顔を見た気がする。練習ばっかであんまり一緒にいる時間なかったもんなぁ。


 明日からまた一緒に過ごす時間、沢山作ろう。俺は心の中で……眠るさくらに、そう伝えたんだ――

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