3-5.笑ってくれるなら
――「ス、ス、スー……カ……ウト?」
翌日、学校の帰り道で、前日の出来事をさくらに伝えた。
「……うん」
「す、すごー……い!!」
別に、デビューなんて考えてもないし、ただレッスンを見に行くだけだから……言う必要もないかなと最後まで迷ったけど。
でも、祐貴には話したのにさくらに話さないのもおかしい気がして、いちお伝えた。
さくらは目をキラッキラさせて、思いの外テンションがあがっているようだ。
「……か、かーい……、げ、げ……げーいのう……じーんに……な、な、なるの……?」
「芸能人!?ははは……なんねーよ。笑」
「ど、どーうして……?ダ、ダ、ダーンス……す、すーき……な……のに?」
さくらは興味津々な様子で、珍しく次々と質問してくる。
……確かにダンスは好きだし、K事務所のアーティストに憧れはある。
でも俺が……芸能人?いやいや……ないない。
「や、や、や、やー……って……み、み、み、み…………」
「ん?」
さくらがこんなに興奮しているのを、初めて見たかもしれない。一生懸命言葉を発しようとしてるけど、興奮でうまく言葉が出てこないのが分かる。
さくらは自分を落ち着かせようとしてるのか、ふぅ~っと大きく息を吐くと、バッグからスマホを取り出して文を打ち始めた。
『やってみたら良いのに』
『ダンスすごく好きなのに、断ったらもったいない気がする』
予想外のメッセージに驚いた。まぁ、祐貴にも同じようなこと言われたけど。さくらは何となく、嫌がるかなと思っていたから。
「……さくらは、嫌じゃないの?」
聞くと、え?って目で心外だと訴えてくる。それからしっかりと首を横に振って、
『嫌なわけないよ!嬉しいよ』
ニコッと口角を上げて笑ってる。その笑顔を見て、別に無理はしてないことが分かった。
「……そっか」
デビュー。
プロダンサー。
芸能人。
K事務所。
「…………」
さくらの言葉で、初めてちゃんと自分の現状と向き合ってみる。
「……レッスン見て考えてみるよ」
さくらは目尻を垂らして嬉しそうに笑ってくれた。
……さくらが喜んでくれるんなら。こんな風に笑ってくれるんなら……考えてみるのも、悪くないかもしれない。
――その日の夜
「……え?!K事務所……?」
自宅のリビングで、いちお継母にも報告をする。そもそもレッスンを観に行くだけのつもりだったから、いちいち言うまでもないかなって思ってたけど。
“断ったらもったいない気がする”
さくらに言われたし……いちお。
「櫂、まじで芸能人になんの?!」
「ふははっ、お前が芸能人とかウケる!無理だろーよ!笑」
真吾と隆吾も話に加わってきた。
双子とはいえ、全然タイプの違うこいつら。
兄の真吾は、THE優等生……将来は医者になりたいらしい。慶大の医学部目指して日々の勉強に励んでいる。
俺と継母がギクシャクしていた時期は、疎ましさや気まずさも感じていたようだったけど、最近はそんな様子もなく、俺も普通に会話している。今は毎日ひたすらに勉強を頑張っているようだ。
一方、弟の隆吾は、性悪だ。いつだって俺を茶化して楽しんでいる節がある。ただ、俺と同じゲームが好きなのもあって、時折俺の部屋に足を運んではゲームの相手をしろと誘われた。だから、親父が再婚してから今日まで、なんだかんだ真吾よりも隆吾と過ごした時間の方が多い気がする。(正直、好きではないけど)
ただ、勉強は慶大付属の中では下の方らしく、先日も継母から『留年は勘弁して』と言われているのを耳にした。
「……まぁでも、良いんじゃないかしら?昔から習っていたんだし」
年が明けてからというもの、継母はこんな調子で、以前のような嫌味っぽさも減っていた。きっと俺の継母への態度が変わったからだと、俺自身自覚している。
「……ありがとう」
継母とは、レッスンの見学に行って興味が出たら、またきちんと話し合いをしようということになった。
そして、翌週末……K事務所のダンスレッスンに行ったはずの俺。
なぜだか松本さんに、ダンスレッスンではなく、憧れのダンスボーカルグループのLIVEに連れて行かれ……一気にその世界に心を奪われてしまったのだった――
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