3-2.かけがえのない時間




――ゴールデンウィーク明け、久しぶりの登校。


 さくらと並んで教室に入るや否や……



「お!待ってました〜!有名人ー!笑」

「桜木って、ダンス上手かったんだな〜!」

「小学生の頃に大会で優勝してんだって?!」


 クラスメートの男子達に取り囲まれる。



「……んまぁ……」


 男子達の圧に押されて、困った顔をしてるさくら。俺がそっと腕を押して逃げるよう促すと、さくらはそそくさと自席に向かった。



「なぁ、あれって友達のアカウントなんだろ?」

「お前もアカ作ってもっとガンガン載せたら?」

「あんな踊れるならプロのダンサーになれるかもしんないよ?!」


 男子校生のSNSへの熱量ってすげーんだな。たいして話したこともないクラスメートをこんなに質問攻めにすんだから。


 彼らの熱量に圧倒されながらも、俺は既にこのやり取りにだるさを感じ始めていた。



「……別に……興味ねーもん」


 気になってさくらに目をやると、じーっと俺たちの会話を聞いていた。ピタリと視線が合えば、ニコッと嬉しそうに笑ってくれた。






――放課後、駅前のカフェ。


 いつもの4人でパフェを食べていると……


「俺まだ見たことないんだよな~。櫂が踊ってるとこ」

「私も……見てみたいな……」


 向かいに座る光太郎カップルから、熱い視線を感じる。


――シュッ


 同時に、スマホにはさくらからのLINE。光太郎と山口と俺たち4人のグループLINEだ。



『私もまた見たい♡』



 隣からも熱い視線を感じて目を向けると、悪戯っぽく笑うさくら。いつものごとく、そんな無邪気な笑顔にいちいちキュンと来て……テーブルの下でギュッと手を繋いだ。



「まぁ……機会があったらな?」


 さくらに言うと、やった♪と吹き出しが目に見えるような可愛い顔して笑ってる。



「……なんか今日さ、俺まで有名人になった気分だったわ~。今日一日で何人に櫂のこと聞かれたことか~!笑」

「私も……櫂くんのこと……聞かれた……」



 そっか。こいつらにも影響があったなんて、申し訳ない。


 実際俺も今日は一日中周りからの視線を感じて、すげー疲れた。



「女子たちもさ?『かっこいいとは思ってたけど……』とか言って、急に櫂に注目し出してんのな!?笑」

「ちょっと……、光太郎くん……!」


 山口の表情を見て瞬時に自分の失言を悟ったのか、急におどおどし始めてる光太郎。



「あ……ごめ……、いや~でもさ?櫂にはさくらちゃんがいるもんな?目移りなんかするわけないよな!」

「ばーか。当たりめーじゃん」



 テーブルの下で繋いでる手にギュッと力を込めると、さくらも弱々しく握り返してくれた。


 不安な気持ちになんか、俺が絶対にさせない。有名になろうがなんだろうが、俺らの関係は何一つ変わらないから。





『今日、家行ってい?』


 さくらにLINEを送る。……個別LINE。



 さくらの家は親父さんが開業医をしていて、そこでお母さんも看護師をしているらしい。詳しい理由は知らないけど、自宅からだいぶ離れた場所に病院があるらしく、毎日帰宅が20時頃になるらしい。


 高校に入学すると同時にお母さんが看護師に復帰をしてから、ずっとそんな生活だとさくらは言っていた。


 だから俺たちは、年が明けてからは週2回くらいのペースで、学校帰りにさくらの家で学校の課題をやったり、ゲームしたり、さくらが絵を描いてるとこを見たりしながら二人の時間を過ごしていた。


……もちろん、時にはやることもやって。




『いいよ』


 届いた返事と、イエーイ!!という文字が出たり消えたりする、ダブルピースしたウサギのスタンプ。



「……俺、そろそろ帰るわ」

「わ、わ、わーた……し……も」


「え?!もう帰んの?」

「……うん、帰ろっか……」


 慌てて帰り支度を始める光太郎は何にも気付いてなさそうだったけど、山口は俺らの様子で諸々察してくれてるらしい。



 こうして4人で過ごす時間も楽しかったけど……やっぱり俺はどうしても、さくらと二人になる時間がほしかった。


 いつだって、二人でいるときだけの、何とも言えない心地良さがあった。



……そう、この頃はまだ……かけがえのないその時間を、何よりも大切にできていたのに――

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