2-25.変化




――それから俺たち6人は、2日目の熱海観光に出向き、夕方地元へと帰った。



「じゃ、さくらは私に任せてー!」

「おう、頼んだ」

「じゃあな〜!皆、ありがと〜!!」


 大野とさくら、光太郎と山口、祐貴と俺に分かれて帰路に着く。



 が、俺たちは「少し踊って帰らん?」と言う祐貴の誘いに乗って、いつもの公園に行った。



「いやぁ〜!楽しかったな〜!光太郎に誘ってもらって良かったわ。笑」

「そーだな」


 公園に着き、ストレッチをしながらそんな会話。


 そういや今更だけど、久々に会った祐貴は髪色だけじゃなく……どこか男らしさが増したっつーか?そんな感じがして。


 一つ気になっていたことをぶつけてみる。



「お前と大野ってさ……付き合ってんの?」

「はぁ?!……ぶははっ」



 吹き出す祐貴。……だってそりゃ、あんな早朝に二人で熱海まで来んだもん。怪しいだろ。



「さくらがさ?大野、良い感じの人できたらしいって言ってたからさ……」

「……あぁ、知ってんだそれ。笑」


 祐貴は笑いを鎮めるようにふぅーっと息を吐くと、



「残念ながら、俺じゃねーのよ」


 そう、日の落ちかけた空を見上げながら意味深な表情をして言った。



「なんかねー、俺も会ったことねんだけどさ?シンちゃんってゆーらしいよ。笑 一個上の慶大付属生らしい」


……慶大付属……か。



「そんであいつ、なんか知んねーけど慶大行く気満々で最近勉強ばっかしてんの。奨学金借りて慶大通って、良い企業に就職するんだーとかほざいてたわ。笑」


……そっか。それで急に昔の見た目に戻ってたっつーわけだ。


 なんにしても、すげー嫌な予感?がすんのは…………なんでだ?




「──つーかお前、麻未にまで妬いてんなよ。ウケんだけど。笑」


 祐貴は思い出したようにケラケラ笑いながらそんなことを言い出す。今朝のことを言ってるらしい。


 チラッと俺の首元のネックレスを見ると、感慨深げに言う。



「……良かったな。さくらちゃんと出逢えて」

「……え?」


「櫂……自覚ないかもしんねーけどさ。すんげー変わったぞ?喋り方もだし、服装も。あと髪も……いつの間にか落ち着きやがって!笑」


 祐貴は俺の学生らしい黒髪をむしるフリして引っ張ってくる。……けっこー痛い。


「……ってぇよ!やめろ。笑」



 そう言われて見れば俺……変わったのかもしれない。変に悪ぶる必要性を感じなくなって、服も髪も落ち着いた。俺の茶髪を気に入ってたさくらは最初不満げだったけど、理由を尋ねたら……


“出会った頃、茶髪だったから”

“黒髪もかっこいいよ”


……なんていうもんだから、宝華生として校内で浮かないために最近はずっと黒のままにしてる。


 そんな見た目のことよりも何よりも、内面の変化も大きかった。


 未だに母さんが夢に出てくる日もあるけど……泣きながら目覚める日は、いつの間にかなくなっていた。


 死んだあの日がフラッシュバックしてくる回数も……さくらに出会い、恋をして、付き合い始めるごとに、少しずつ減ってきている。


 でもその一方で……別の感情も生まれてきていた。


「俺さ……最近こえーんだ」

「は?!なにが?」


 祐貴のせいでセットした髪がぐちゃぐちゃになったことを少し気にしながら話す。



「さくらのことも失ったら……って。ときどき考える」

「………」


「俺さ……自分で分かってんだ。さくらにすげー依存してんの」

「あぁ…………ま、そうなるかぁ……」


 祐貴は遠くを見つめてる。


 しばらく沈黙……。“なんか悪かったな。こんな空気にして……”と、何か言おうとしたとき、


「……何かあったらさ、一緒に踊り狂おうぜ?」


 そう言ってニターッとムカつく笑顔で微笑んで、SNSで流行ってるらしいダンスを踊り始めた祐貴。


「……そーだな」


 心強くなって、俺もいつの間にか祐貴と同じ音楽に……夢中で、身を委ねていた――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る