2-5.ファーストキス



――「麻未のことは俺に任せて、お前らはイチャイチャしてろ!笑」


 そう、祐貴には言われたけど。さくらはあの日から、どう見ても元気がない。



「……さくら?」


 名前を呼ぶと、ハッとしたように俺を見る。“大丈夫?”と言葉にしかけて、やめた。


 さくらの大野への気持ちはもう充分に知っていた。ずっと支えてもらって生きてきたこと、大野はなぜか俺のことを話題にすると嫌がるから話すタイミングが難しかったこと、家族よりも大切な存在なこと……


 さくらはあの日、泣きながら一生懸命スマホに文字を打って俺に教えてくれた。


 話を聞く以外に何か、他にさくらを元気付ける方法を考えねーと…………あ、そうだ。



「あのさ……イルミネーションでも観に行かない?」


 季節はもうすぐ冬になる。まだちょっと早いけど……確かこの前、有名なイルミネーションのスポットで点灯式が行われたって、ネットニュースに書いてあった気がする。


 俺の誘いを聞いた瞬間、パッとさくらの瞳が輝き出して、嬉しそうに頷いた。久しぶりにワクワクした表情のさくらだった――







――週末、夕方待ち合わせてファミレスで食事を済ませ、辺りが暗くなってきたのを確認し、その場所へと向かう。



「わぁ~♡すごーい!!」


 道行く女性のはしゃぐ声が、俺の隣で手を繋いでいる彼女の心の声を代弁してくれているみたいに。目をキラッキラさせて、イルミネーションに見惚れているさくら。


 感激している様子に、胸があったかくなる。


「……綺麗だな?」


 声を掛けると、俺の方を向いてニッコリ口角を上げて微笑むさくら。繋いでいる手に、そっと力を込める。


 昼間はまだそんなに寒くないけど、夜はけっこう冷えるなぁ。



 今日のさくらのコーディネートは、薄手の白いニットにチェックのスカート。ジャケットを羽織ってるけどそれも薄手で、生足……ちょっと寒そう。



「寒くない?温かい飲み物でも買い行こ?」


 俺たちは近くの売店でホットココアを買って、ベンチに座った。並んでイルミネーションを見ながらココアを飲むと、冷えた身体に温かい液体が流れ込んでいくのを感じる。


 隣を見ると、両手でココアを包み込んでチビチビと飲んでいるさくら。……やっぱ寒いんかな?と気になって。少しお尻を横にスライドさせて、さくらの隣にピッタリくっつく。




「……この方があったかいっしょ?」


 そっと華奢な肩に腕を回し、ギュッと抱き寄せた。……すると、さくらが俺の肩に頭をもたれてきて。彼女の髪からふんわりと女子の匂いがしてきて、急にドキドキしてくる。



 しばらくその体勢のまま、ぼーっとイルミネーションを眺めていた。




――ふと、視線を感じて……


 俺の肩に寄りかかるさくらを見る。至近距離で俺をじっと見るさくらと目が合った。



……これって……そうゆう流れ……だよな?


 俺はさくらの肩から手を下ろし、隣に身体を向ける。さくらの手からココアをそっと手に取って、自分のと2つ、ベンチに置いた。




「……キスしてい?」


 一応、確認すると……


 了解したように、さくらはそっと目を閉じた。その動きが、なぜだかすげー色っぽく思えて……高まってくる愛しい気持ち。




「――…っ、」


 ゆっくり触れた唇は、甘くて柔らかくて。

 緊張と興奮で、頭が真っ白になる。



 顔を離して見つめれば、恥ずかしそうに視線を逸らすさくら。……しまいには俺の胸に、顔を隠すように埋めてくる。



「……可愛すぎ」


 つい本音が漏れて、ギュッと抱きしめれば、遠慮がちに背中に手を回してくれる。抱き合う俺たちを、青…赤…緑…と順番に照らす綺麗なライト。



 飲みかけのココアは、きっともう冷めてるけど。



 俺たちのファーストキスは……ココアよりもずっとずっと、甘く温かく、お互いの心を満たしていったんだ――

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