2-4.亀裂




――翌週、月曜日。



「おはよ~!!」

「おっはよー」

「はよ」


 朝、いつものメンバーで待ち合わせ場所に集合し、歩き始める。


 週末デートした時に『月曜日、麻未に話す』と言っていたさくら。


 普通、女子って、恋愛の話なんて何でもソッコー報告し合うようなイメージだけど……どうやら、さくらと大野はそうゆう感じじゃないらしい。


 よく分からないけど、無理にすぐ言う必要もねーなと思ってた俺は、たいして気にしていなかった。



「……あれ?さくらちゃん、それ……」


 4人でいつも通り歩いていると、光太郎がさくらの左手首の物に気付く。制服の袖に隠れてパッと見ても分からないはずだけど……光太郎は本当にさくらをよく見ているらしい。


 何となくやばい気がして、咄嗟に自分の左手首を隠そうとすると……



「櫂?あんた何隠してんの?」


 大野が殺気立った目で俺を見ながら、隠した左手首をグイと引っ張った。袖口を捲られ、ブレスレットが姿を現す。



「え?!え、なに?!櫂とさくらちゃんお揃い……?!待っ……えーーーまじかよーー!!」


 すんげーでかい声で反応し、項垂れてる光太郎。その隣で、強い視線を俺に突き刺してくる大野。


 さくらを見れば、気まずそうな顔をして大野を見ていた。



「あぁー……そっかぁ……やっぱりかぁ」


 光太郎は自らを納得させるようにそう言うと、ふぅーっと大きく息を吐く。


「櫂、さくらちゃん、おめでとう!!」


 そう言って、顔をしわしわにして俺らに笑いかけてくれた。



「……ごめんな、ちゃんと言えてなくて」

「いーよいーよ!言いづらかったよな?逆にごめん!!」


 まったく……。どこまでコイツは良い奴なんだろう?そんな光太郎とは対照的に……



「さくら……どうゆうこと?なんで話してくれなかったの?」


 唇をギュッと噛み締めて、怒りの感情を剥き出しにしてる大野。怒っているはずなのに……さくらを見るその目は、すごく悲しそうだ。


 さくらは慌ててメモ帳を取り出そうとするも、怒ってる大野に動揺してるのか、ペンを持つ手が震えている。そんなさくらを見ていたら胸が苦しくなって、今度は俺が大野にイラついてくる。




「……さくら今日お前に話すって言ってたよ?仲良いからこそ言いにくかったんじゃねーの?」


 俺が言った途端、大野は更に怒りをヒートアップさせた。


「……あんたは黙ってて」

「は?!」

「あんたに私とさくらの何が分かんのよ」

「分かんねーけど……別にそんな怒んなくても……」


「怒るよ!怒るに決まってんじゃん!あんたなんかより私の方がさくらのこと知ってんの!さくらのこと一番理解してんのは私だし、この世でさくらのこと一番好きなのは私なの!!こんな大事なこと話してくれなかったなんて……ひどすぎる……っ」



……大野は泣いていた。見ると、さくらも真ん丸の瞳に涙を浮かべている。



「……さくらのばか」


 涙声で言い残し、大野は一人で学校と反対方向へ戻って行った。


 この日を境に……大野は学校に来なくなった。さくらが連絡しても、一切応答がないらしい。



 大切な女友達との仲に亀裂が入ってしまったさくらは……見ているこっちまで苦しくなるくらい、寂しそうで悲しそうで。


 別に何も悪いことなんてしてないはずなのに、なんだか俺までどんよりした暗い気分になった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る