2-3.ブレスレット



──さくらの家に遊びに行った日、彼女から聞かされた俺たちの本当の出会い。


 あの日、彼女の家の前で会った小学生……確かに見覚えがあるような気はしたけど、まさかあの子が……前にドーナツの注文を手伝ったあの子だったなんて。



「好きな人に好きになってもらえるってさ、まじですげーことなんだな~」


 光太郎が切なげに漏らしていたことを思い出す。


 ひょっとしたら俺より前から……さくらは俺のことを、想っていてくれたのかもしれない。


 そう思うと、愛おしさが更に増してきて……何倍にも想いが膨らんでくるのが、自分でも分かった。






――休みの日、俺たちは特に目的もなく一緒に出掛けた。


 映画を観に行ったあの日を教訓として、俺が先に着いて待つようにする。さくらは待ち合わせ場所で俺を見つけると、安心したようにふんわりと笑いながら近づいてきた。



『待っててくれてありがとう』


 手元のスマホに届いたメッセージ。


“デートの待ち合わせは、必ず俺が先に待つ”


 そんな二人だけのルールが1つ出来たみたいで、なんだか嬉しかった。




「じゃあ……行こっか」


 スッとさくらの手を取って、指を絡める。恥ずかしがって少し視線を逸らす姿に、胸がギュンと熱くなる。


 前回食べ損ねたオムライスを食べに行って、フラフラとウインドウショッピングをしていると……さくらが、小さなアクセサリーショップの前で立ち止まった。




「……ん?ここ見たい?」


 俺が聞くと、コクンと首を縦に振ったので、二人で入店する。


 店内には、シルバーアクセサリーや、パワーストーンのような綺麗な石が埋め込まれたアクセサリーがズラリと並んでいた。



 ふと見ると、さくらが何かを手に取ってじっと見つめている。近づいてよく見ると、細身なチェーンのシンプルなブレスレットだった。プレートの部分に名前の刻印が出来るらしい。



「これ……良いね。一緒に買う?」


 お揃いなんて……と、内心思いつつも。

 聞くと、嬉しそうに口角を上げて頷くさくら。



≪KAI≫≪SAKURA≫



 それぞれの名前をプレートに彫ってもらった。店員から受け取ると、さくらは≪KAI≫と書かれた方を自分に、≪SAKURA≫と書かれた方を俺に手渡した。



「あ、そうゆう感じ?笑」


……正直、ちょっとはずい。いや、結構はずい。

 でもあんまり文字は目立たないし……まぁいっか。


 さくらを見ると、すげー幸せそうな顔でブレスレットを左手首に着けている。


 その横顔を見ていたら……なんかもう、全部がどうでも良くなって。




 さくらが喜んでくれるなら、周りの目なんて気にせずにずっと着けてよう。これに限らず、何だって。


 そんな風に思えるほど……俺の荒んでいた心は、彼女の存在で少しずつ、丸くなっていったんだ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る