第2章

2-1.本当の出会い


――さくらと付き合うことになった翌日。


『まだ麻未には秘密にしてほしい』


 さくらがそう言うから、大野に知られないように学校ではこれまでと変わらない距離感で過ごした。



 でもいちお、あいつには報告しとこうってことで……


「まーじーか~!うーわ!笑」


 学校帰り、いつもの公園に呼び出して報告したら、大興奮の祐貴。



「あ、なんかまだ大野には言わないでって……」

「え?……あぁ……その方がいーだろーな」


 祐貴は一瞬顔をしかめた後、納得したように言う。



「……なんで?なんかあんの?」


 不思議に思って聞くと、「いや……」と決まり悪そうな返事。どうやら祐貴は、大野とさくらの何かを知っているようだ。


「あーーー、にしても櫂がなーーー。笑」


 再び感慨深げに空を見上げてる。その横顔が素直に嬉しそうで……なんか照れくさかったけど、ちょっと誇らしい気分だった。





――その日、自宅のベッドの上で動画を見ていると、


『明日の放課後、うちに遊びに来ない?』


 さくらから届いたLINE。



『いーの?』

『うん。うち二人共、遅くまで帰って来ないから』


 そういえば、さくらの親父さんは医者で?お母さんは看護師って言ってたような。



『分かった。じゃあ明日』


 返信をすれば、ウサギがワクワクしてるスタンプが送られてきた。


 付き合って2日でいきなり家かぁ……。


 いくらこれが初恋とは言え、俺だっていちお思春期の男子。さすがに何も……ねーよな?

 いや……さすがにはえーよ。うん。






――翌日、放課後。


 さくらの家は、高校の最寄りから4駅先にあった。駅を降りて、家までの道を歩く。二人で並んで歩いていると、ふと手が触れ合った。


 観覧車でお互いの気持ちを確認し合ったあの日に手は繋いだけど、改めてこうゆう状況になるとまた気恥ずかしい。だけど、やっぱり……触れたい。



「……ん、手」


 差し出すと、ニッコリ笑って手を重ねてくれる。ギュッと包み込んで目を見れば、お互い恥ずかしくなって笑い合った。


 あぁ……なんかこれ、めちゃくちゃ青春じゃん。


 10分くらい歩くと、さくらが立ち止まって“あれがうち”と、目で教えてくれた。見ると、さすが医者の家だけあって、随分と立派な家。




「……あ!さくらちゃん!」


 さくらの家の玄関を入ろうとすると、小学生の女の子がさくらに駆け寄ってきた。



……あれ?

 この子、どっかで見たことあるような……?



「こんにちは!」


 可愛らしい笑顔で俺にも挨拶してくれた。


「……こんにちは」

「お兄ちゃん、さくらちゃんの彼氏?」


 無邪気な笑顔で一丁前な質問。

 なんて答えようか……と、さくらに目配せする。



 さくらは右手でピースサインを作って、女の子に頷いて応えた。


「きゃ~!やっぱり彼氏~♡」


 女の子はキャッキャとはしゃいでいる。さくらはそんな彼女の姿を、ニコニコしながら見ていた。


「じゃ、またねー!」


 手を振って走り去った女の子を見届けて、玄関の中へと入る。






――さくらの部屋に入ると、中央のソファーに座るように誘導されて腰かけた。


 部屋を見渡すと、ドアの横に小さなゲージが置いてあり、その中には白くてホワホワしたウサギを飼っていた。


……あ。


 お茶を入れてリビングから戻ってきたさくらに聞く。



「なぁ、このウサギ……いつものLINEスタンプに似てない?笑」


 さくらは少し驚いて、“あ、気付いた?”みたいな顔で俺を見た。するとさくらは何やらタブレットを手に取って、俺に見せてくる。



「……え?!まじか……」


 おそらく絵を描くソフトかなんかの画面を見せられ……、そこにはいつもさくらが使ってるスタンプの原型のようなデザイン画が写されていた。



「あのスタンプ……さくらがデザインしたの?」


 聞くと、ニッコリ笑って頷くさくら。


 俺は自分のスマホを取り出して彼女とのLINE画面を開き、スタンプをタップする。クリエイターの欄には、たしかに≪sakura≫と書かれていた。



 まさかさくらに、絵の才能があったとは……。

 驚いてぼーっとしていると、さくらは横からタブレット画面を操作して別のページを開いた。



「え……?これって……」


 そこに描かれていたのは……



 茶髪で学ランを着た、中学時代の俺だった――

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