1-20.君の気持ち
──新学期が始まって、1カ月ほど経った頃。
夕方はちょっと空気が涼しくなってきたな~なんて考えながら教室を出て、階段を下りる。
「……ん?さくら?」
下駄箱に少しもたれるようにして、さくらが立っていた。
「……おう、誰か待ってんの?あ、大野?」
聞くと、首を横に振るさくら。チラッと職員室の方を気にしながらスマホを取り出そうとしたのを見て、俺もスタンバイ。
もう帰りだし……大丈夫っしょ。
『今日、何か予定ある?』
送られてきたメッセージを確認し、彼女を見る。小さく首を傾げて俺の返事を待つその顔。
……んー、やっぱ可愛い。
「なんもないよ。なんで?」
答えると、嬉しそうに口角を上げている。
スマホに文字を打ち込むさくらを見ていると……
「こーら!お前らー!校内スマホ禁止だぞ~!!」
阿部のでっけー声が聞こえると共に、ドスドスと足音が近づいてくる。
「やっべ……!さくら、行こ!」
俺は慌ててさくらの腕を掴むと、大急ぎで校門へと走った。
「……はぁっ、……はぁっ、あっぶねー。笑」
校門を出て、阿部が追ってこないことを確認し、立ち止まる。
「……はぁっ、……はぁっ」
隣で息を切らすさくらの呼吸音がすぐ近くに聞こえる。かすかに聞こえる“声”のような音。
もっとちゃんと、彼女の声を聞いてみたい。
……そんな想いがふと浮かぶ俺。
息が整ってきたところで、思い出す。
「えっと……さっき何言おうとしてた?」
聞くと、ニッコリと口角を上げて笑うさくら。
再びスマホを取り出す。
『櫂と一緒に帰りたかったから』
……なんなんだ、これは。
やっぱりさくら……俺のこと……?
でも、他の男子とのやり取りを見たことないしなぁ。俺以外の奴にもこーゆーこと言うんだろうか?
……ダメだ。分からない。
「じゃあ……どっか寄ってく?」
勢いに任せて誘ってみると、キラッキラした瞳でコクリと大きく頷くさくら。
そんなさくらを見て、当然俺の勘違い?は加速して行って。浮かれる気持ちを抑えきれぬまま、とりあえず駅まで並んで歩いた――
――高校の最寄り駅から二駅先に、大きなショッピングモールがある。
俺たちはその中にあるドーナツショップでドーナツとドリンクを頼み、フードコートでドーナツを食べた。
『櫂、甘い物好きなんだね』
「うん、別に嫌いじゃない」
答えてさくらを見るけど、さくらはスマホから目を離さない。ゆっくり何かを考えて、文を打ち込んでいる。
……何を言おうとしてるんだろう?筆談だった頃のもどかしさを思い出す。
『甘い物好きな男の子って良いよね』
そんな文面と共に、また“キュン♡”と書かれた目がハートのウサギスタンプ。
「……そう?」
……やっぱりなんか俺、試されてる?
さくらの気持ちを読みたくてじーっと見つめていると、しっかり目が合って。すぐに照れたように逸らされた。
この反応を素直に受け取ってしまって良いのだろうか?……分からない。むず。
――シュッ
ぼーっとしてたら音がしてスマホを見ると、再び目の前の彼女からメッセージ。
『櫂って…好きな人いる?』
ドクンッと心臓が鳴り出す。
待てよ待てよ……。こうゆうとき、なんて答えるのが正解?
きっと恋愛ドラマなんかに出てくるイケメンなら、「お前が好きだよ」とか言えちゃうんだろーけど。俺にはそんなこと言えるはずもなく。
「……別に……いないかな」
そっけなく答えた。チラッと反応を伺うと、ちょっと悲しそうな顔をしてるさくら。
“さくらは好きな人いんの?”
そう口元まで出掛かって、辞めた。
聞くのが怖かった。
もし、すべてが俺の勘違いだとして。
別の“好きな人”とやらの恋愛相談でもされようもんなら……きっと俺は、立ち直れない。
「……帰り、コンビニ寄ってい?」
話題を変えたくて、問いかける。
どこまでも臆病な俺……というよりも、どうしたら良いのか分からなかった。
何もかもが初めてで、自分の感情にもさくらの言動にも、ただただ翻弄されていた。
告白するだとか付き合うだとか……そんなのあまりにも未知の世界過ぎて、頭に浮かびもしなかったんだ――
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