1-19.交錯する想い



――夏休みも終わり、学校が始まった。


 映画を観に行ったあの日以来、さくらとは毎日LINEのやり取りをしていたから、俺的にはものすごく距離が縮まった気がしている。



「おはよー!久しぶり~!!」

「おっはよー」

「はよ」


 光太郎、大野、俺、さくら。夏休み前と同じメンバーで駅前に集合する。


 光太郎からフラれたことを聞いている俺は、二人の関係を気にしていたけど、見た感じ特に気まずそうな様子はない。



 きっと、“これからも今まで通り友達でいよう”とか何とか、二人で話し合ったんだろう。


「あれー?さくら、それなくしたんじゃなかったっけ?」


 学校まで歩いてる途中、大野が何かに気付いたようだ。振り返って俺もさくらを見ると……



「……あ」


 ブレザーの胸ポケットに、桜のモチーフのヘアピンが挿してあった。


 ふと目が合うと、さくらは恥ずかしそうに頬を赤らめている。メモ帳をスッと取り出すと、何かを大野に見せた。




「……ふーん」


 大野は一瞬俺をチラッと見た後、なぜか不満そうに睨んでくる。さくら、大野になんて言ったんだろう……?


 さくらに目を向けるとニコッと笑ってくれて。


 デートしたあの日以来、勘違いすることを自分に許可した俺は、


 “大野に俺とデートしたって言ったんかな?”

 “俺のこと好きとか、もう話してんのかな?”


 そんは思考をグルグル巡らせながら、ふわふわした気分で学校への道のりを歩いた――






――学校では夏休み前と同様に、俺とさくらはだいたい一人で過ごしていて、光太郎と大野はそれぞれクラスの別の友達と一緒に過ごしていた。


 そういえば、あれだけ登校中さくらにベッタリな大野だけど、学校では一緒にいる姿をあまり見かけないことに、今更気付く。



 昼休みが終わる頃、チラッと見るといつものように中庭に座って本を読んでいるさくら。


 俺は彼女にそっと近づき、無言で隣に腰かけた。


 人の気配がしたのか、ふっとさくらが顔を上げてこっちを見る。目が合うと、あっと驚いた後に、ニッコリ笑ってくれる。



「あのさ?なんで学校では大野と一緒じゃないの?」


 俺が聞くと、彼女はメモ帳を取り出した。……そう、宝華学院では校内でのケータイ使用が禁止されている。


『私が頼んでるから』


 綺麗な文字で、そう書かれている。


「なんで?」


 再び聞くと、またペンを走らせる。


『麻未には、他のお友達とも仲良くしてほしい』



……なるほど。


 きっとこいつらの間には、他にもいろんな小さな約束事があって、お互いのことを思いやりながら関係を築いてきたのだろう。


 視線を感じて、中庭から教室棟を見上げると……2組の教室の窓から大野がこっちを見てる。



「……さくら、上」


 俺が肩を突いて教えると、さくらは目線を上げて大野を見つけた。ニコッと笑って手を振るさくらに、嬉しそうに手を振り返す大野。



 そんな二人の特別な空気感に……なんだろう?

 妬いてんのか、羨ましいのか、よく分からない気分になってきて。



「そろそろチャイム鳴るし、戻るわ」


 さくらに素っ気なく伝え、俺は教室に戻った。






――学校が終わり、帰り道。



「櫂~!!」


 下駄箱で靴を履き替えていたら、光太郎が走ってきた。


「お疲れ」


 二人で駅までの道を歩く。光太郎はよく喋るから、今日学校であった出来事をぺちゃぺちゃと楽しそうに話してる。俺はときどき相槌を打ちながら足を進めた。


「なぁ……櫂?」


 光太郎が急に深刻そうな声色で聞いてくる。



「ん?なに?」

「俺今日……ちゃんと笑えてたかな?」

「え?!」


 驚いて隣を見れば、光太郎がらしくない顔して、ぼーっと空を見上げてる。



「……さくらちゃんのこと……俺まだ全然吹っ切れてねーんだ。笑」


 こんなに切ない笑顔が、この世に存在するのだということを、俺は初めて知った。


「……そっか……」


 なんて声をかけたら良いのやら。



 しかも、こいつを振った張本人は俺の好きな人。おまけに二人でデートにも行った。……なんなんだ?この状況は。




「櫂~?」

「ん?」


「好きな人に好きになってもらえるってさ、まじですげーことなんだな~。あー……つれ~!!」


 天に向かって叫ぶ光太郎が、俺にはなんか少し大人に見える。




「……だな」



 俺の恋はこれからどうなっていくのだろう?

 俺も振られるんだろうか?それとも……


 恋というものを初めて体験してる俺にとっては、未来があまりにも見えなすぎて。


 ワクワクだとかドキドキだとかよりも、恐怖の方が大きいような……そんな青臭い、不思議な気分だった――

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