1-18.デート?②



――さっきはそれどころじゃなくて、全然ちゃんと見てなかったけど……



 今日のさくらの服装は、以前見た時よりも少しだけカジュアルだった。


 レース素材の花柄のトップスは、胸元と袖だけが少し透けていて品が良い。チラッとテーブルの下に目をやれば、スキニーのジーンズが細い脚のシルエットを浮き彫りにしている。


 薄っすらと化粧もしているみたいで、サラサラの髪をハーフアップにしていて。



……やべーな、今更ドキドキしてきた。






――アイスウーロン茶とりんごジュースを注文すると、スマホを取り出すさくら。


 それを見て、俺もスマホをポケットから出して通知を待つ。



『ごめんね。せっかくのデートなのに』



……ん?!

 え……待てよ。そっか、これってデートか……。



「俺が先に行って待ってればよかっただけだから。ごめんな?」



 さくらの身体のこと……こうなると予測できなかった自分が、不甲斐ない。さくらは首を振りながら頬を赤くして笑ってくれてる。




『楽しみすぎて、すごく早く着いちゃったの』


 送られてきたメッセージを読むと、ギュッと胸の奥を鷲掴みにされたような気分になる。



……なんだこれ。



「……俺もだよ」


 照れながら伝えると、タイミングが良いのか悪いのかちょうどドリンクが運ばれてきて。



 嬉しそうな顔してりんごジュースを飲むさくらを見ながら、



 “こいつの好きな人って……もしかして……”



 そんな淡い期待が頭をかすめる。

 いやいやいや……。



「あ、そーだ」


 鞄のポケットから取り出したそれをテーブルに置くと、さくらはパッと花開いたように笑って俺を見る。


 すぐにスマホの画面に目を移すと、文字を打ち始めて……



『ありがとう』

『どこで見つけたの?』


 顔をあげると、不思議そうに俺を見つめてる。



「どこって……あの大通りだけど……」

『探しに行ってくれたの?』

「……いや……そーゆーわけじゃ……」



 おかしいよな?どう考えても。たまたま通り掛かったとも言えないし……


 答えあぐねてると、キョトンとした顔で俺を見つめ続けてるさくら。




「……うそ。朝すぐ探しに行った」


 ここはもう、隠しようがない。


 正直に伝えると、さくらは嬉しそうに笑ってる。……ニヤニヤという言葉が相応しいような、悪戯な笑顔。



「……んだよ。なんか変?」


 聞くと、さくらはスマホに何かを打ち始めた。



『変じゃない。嬉しいだけ』


 そんな一文と共に、目がハートのウサギのスタンプ。“キュン♡”という文字が添えられている。




……なんだろう?

……俺は試されているのだろうか?


 さくらはやっぱり、俺のこと……?



 どうしてもそんな風に期待してしまうような彼女の言動。簡潔に言うと……いちいち可愛すぎる。



 目の前の彼女に視線を映すとパチッと目が合った。恥ずかしそうに首をすくめて笑うさくら。



 俺もう……勘違いしても、良いんかな……?








――昼ご飯は、さくらが発作の直後はあまり食べられないということで、カフェの軽食で済ませた。


 午後は当初の予定通り、映画館に行った。



 俺は、前日ほとんど寝てないせいか、さくらの発作の緊張感から開放されたからか、開始10分で寝てしまった……。



 はっと目を覚ますと、スクリーンにはエンドロールが。うわ、最悪だ……。



 恐る恐る隣を見る。




「……まじかよ。笑」



 口角を上げ、スヤスヤと幸せそうな顔して眠ってるさくら。


……なんだろう?……愛おしい。



「さくら、起きて」


 俺が肩を揺すると、ハッとした顔で慌ててる。


 彼女はスマホを取り出すと、文字を打ち始めた。すぐに俺のスマホが光る。



『ごめん』

『昨日あんまり眠れなくて』



 気まずそうにチラチラ俺の顔色を窺ってるさくら。



「全然へーき。行こっか?」



 “俺もだよ”って……言わなかったのは……


 彼女よりもほんのちょっとだけ優位に立ちたかったから……かもしれない――



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