1-17.デート?①






――来たる8月1週目の土曜日。



 夏祭り以来、約1週間ぶりにさくらと会える。

 しかも、二人だけで。


 正直昨日はほとんど眠れなかった。女子と二人で出掛けるなんて、生まれて初めてだ。


 洗面所の鏡に映る俺は、寝不足のはずなのに目が輝いてるみたいで……なんか変な感じ。


 服は、何着てこう?


 あいつ、いつもなぜか『髪色明るい方が良い』とか言うし……意外とチャラそうなのが好きなのか?



 散々悩んだ挙句、グズグズと悩んでいる自分のダサさにまた嫌気がさして、結局テキトーに取り出した無地の黒Tとデニムを少し着崩して、家を出た。



『今から向かう』


 最寄り駅まで自転車を漕ぎながら、LINEを送信。


――シュッ


 すぐに返信が来た。



『私も向かってるよ』


 直後に、ウサギがブランコを漕いでいるスタンプが送られてくる。ウサギが動くたびに“ワクワク”という文字が出たり消えたりしてる。



「ふっ……」


 傍から見たら俺は相当やばい奴に見えるだろう。スマホ片手に、自転車を漕ぎながら、独りでニヤついてるんだから。



『昼、何食いたい?』


 もうすぐ会えるっつーのに、LINEが途切れるのが嫌で返信を送る。



『オムライス食べたいな』

『お、いーね』


 電車に乗ってからも他愛もないやり取りを続けていたけど……



『俺、もう少しで着くよ』


……そこで、パタリと返信が途切れた。


 まぁ、数分後には会える訳だし。少し寂しさを感じながらも、電車を降りる。






 

――駅から少し歩いて、待ち合わせ場所に向かって歩いて行くと……


 あれ?……ちょうど待ち合わせ場所のあたりに、人だかりが出来ている。



「……まさか」


 嫌な予感がして、慌てて駆け寄ると……顔面蒼白のさくらが地面にしゃがみ込んでいた。


 あの時と似ている。光太郎が校内で初めてさくらに話し掛けたあの時。



「さくら!!」


 大声で俺が叫ぶと、さくらは薄っすらと目を開けて俺を見る。


“ご・め・ん”


 小さく口元が、そう動く。



「何言ってんだよ……大丈夫か?」


 きっとこいつ、誰かに話しかけられたんだな。そう思って周りをギョロリと見渡す。まるで、犯人を捜すみたいに。




「あの……ごめん。俺たちが話しかけたら……」

「可愛いねって、声かけただけなんだけど……」


 如何にも大学生って感じの男二人組が、俺に謝ってきた。急にこんなことになってビビってるのがよく分かる。



「…………」



 ダメだ……。こいつらは別に、特別悪いことをした訳じゃない。ただ声をかけただけ。普通にナンパしただけのつもりなんだろう。


 でもどうしようもなく、怒りが湧いてくる。……いや、これは自分自身に対する怒りなのか?


 さくらの身体のこと、知ってたはずなのに……。なんでこんな場所で待ち合わせなんてしたんだろう?


 なんで俺が先に来なかったんだろう……?




「……話しかけられるだけでも……死ぬほど怖ぇー奴だっていんだよ」


 誰に向ければ良いのか分からない苛立ちを、当てつけるように吐き出す。男たちの顔は見られなかった。



「さくら、立てるか?」


 さっきよりだいぶ顔色が良くなってきた彼女は、ゆっくりと立ち上がる。



「……とりあえず、どっか入って休も」



 さくらの肩を抱くようにして寄り添いながら、俺たちはソファー席のあるカフェに入った──

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