1-16.玉砕
――夏祭りの日、俺たちは残りの3人と合流してから帰った。
翌朝早く、俺は祭りの会場だった大通りへと向かう。ほとんどの屋台が既に片付けられていて、地域のボランティアらしき人たちが道路のゴミ拾いをしていた。
俺がここへ来た理由は、ただ一つ。
「……あった」
大通りの端っこに転がっていたそれ。誰かに踏まれたみたいで、砂で汚れて薄黒くなっている。俺はその砂を指で丁寧に掃うと、手の平で包んだ。
……さて、俺はこれを、どうしよう?
今はまだ、夏休みも序盤。このまま休みが明けるまで待っていたら、1カ月彼女に会えない。それは正直……嫌だった。
だってもう、昨日会ったばかりなのに。
早く会いたいと思ってしまってる。
俺はスマホを取り出すと、カメラのアイコンをタップした。
――パシャッ……
手の平に乗せた桜のヘアピンを撮影する。
今度はLINEを開くと、彼女に写真を送信。
ドクドク……ドクドク……
やっぱりいちいち熱く踊り出す心臓にうんざりしながら、文字を入力する。
『これ見つけたから、夏休み中会えない?』
あー……だせー。会うための口実にヘアピンを利用してるこの感じ。どんどん自分が嫌いになってく気がする……。
――シュッ
すっかり人が増えてきた大通りを歩きながら、自虐的なことを考えていると、メッセージ音がして……慌ててスマホを開く。
『櫂……今日会える?』
……光太郎からだった。
「――フラれ……ました……」
光太郎に呼び出された駅前のファミレス。先に着いた俺が待っていると、泣きそうな顔をしていきなりの玉砕宣言。
「まじ……いつ?」
「昨日……祭りの後で」
おぉ……、あの後も会ってたってことか?
「……直接告ったの?」
「……いや。家着いてからLINEした」
なるほど。なぜか俺、ホッとしてる?あの後も二人で会ってたらなんか嫌だなって……。
この感情の正体が、今なら分かる。これは嫉妬。もしくは、独占欲ってやつだ。
「なんて言われたの……?」
興味ないふりが、どうしても出来なくて。踏み込んで聞くと、光太郎は残念そうに言った。
「……好きな人……いるんだって」
――ドキンッ
落ち着いてたはずの心臓が、一気に跳ねる。
好きな人……。
そっか。考えたこともなかったけど……
そりゃ……そうだよな。あいつだって好きな人くらいいるよな。あまりにも呑気に彼女にLINEを送ってしまった数時間前の自分を恥じる。
「……そう……なんだ……」
申し訳ないけど、その後の光太郎との会話は、ほとんど上の空。
どうしようか。
さっき送ったLINE、訂正しようか……?
やっぱり休み明けに学校で渡すって言う……?
そもそもあいつ、もうLINE見て………あ。
光太郎から見えないようにアプリを立ち上げようとしたタイミングで、ちょうど届いた2通の返信。
『嬉しい!ありがとう!』
『私も会いたいです』
「………………」
まさにこのメッセージの送り主にフラれて傷心中の友人を目の前にして……嬉しさと申し訳なさが共存した変な気分になり、俺はゆっくりとメニュー表に視線を落とした――
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