1-15.夏祭り②
――それぞれ好きなものを屋台で買って、再び集合。
ものすごい人ごみの中、5人で座れる場所を探し、フラフラ歩きながら進む。
人の波が反対からも押し寄せてきて、道路がギュウギュウの状態。大野、祐貴、光太郎、俺、白沢の順で縦に並びながら歩く。
心配になって後ろを振り向くと、白沢が足元をキョロキョロ見回しながら歩いていた。
「どした?何か落とした?」
彼女に届くように声を張って聞いてみると、自分の頭を指さして何かを訴えてる。
……あ。
桜のヘアピンがなくなっていることに気付く。俺は少しだけ後ろに戻って白沢に近づくと、見える範囲で足元を探した。
ただ、こんなに沢山の人がいる中で見つけられるはずもなく。
「白沢……さすがに見つけらんねーよ、諦めよ……」
俺が言うと、一瞬残念そうに目を伏せたものの本人も無理だと思ったのか、すぐにニコッと笑顔を作った。
白沢を先に歩かせて、後ろ姿を見ながら歩く。
他の3人はだいぶ離れてしまった。もう追いつけそうにない。
いや……追いつきたくない。
「……待って」
俺は後ろから白沢の肩を掴んだ。ん?という顔をして振り向く。
「あっち行こ?」
驚いてる彼女の小さくて柔らかい手を、俺は握っていた。そのまま反対側の人の流れに割り込んで、さっき来た道を逆戻りするように進む。……彼女と二人だけで。
自分でも驚いた。まさか俺がこんな行動に出るなんて。それはもう、本能に近い感覚だった。
白沢と二人きりになりたいと思った。
繋いだ手から俺の脈が伝わってしまうんじゃないかというくらいドキドキして。自分が自分じゃないような、変な気分だった。
――大通りから少し外れた道に入ると、屋台の数も人の数も減る。
いつの間にか、空は真っ暗になっていた。
俺たちは二人でかき氷を買うことにした。俺はブルーハワイ味、白沢はイチゴ味を頼んだ。
お祭りの喧騒から外れた小さな駐車場で、車止めに腰を下ろして二人で食べ始める。
『髪の色、やっぱりその方が好き』
半分くらい食べ進めた頃、白沢が隣から俺に送ってきたLINE。夏休みに入ってから染め直した茶髪を褒めてくれる。
「そー?……さんきゅ」
んー……なんだこれ。むず痒い。
「白沢も……似合ってるよ、浴衣」
お返しみたいに伝えると、照れたようにニコニコしながらかき氷を口に運ぶ白沢。
小さなストロースプーンをチョビチョビと口に運ぶその動きが、小動物みたいで可愛くて。
じーっと見つめていたら…………あ。
「白沢、べーってしてみて?」
彼女の舌が赤く染まっているのがチラッと見えて。頼んだら恥ずかしそうにベーッと舌を見せてくれた。
「ははは、真っ赤じゃん。笑」
俺が笑うと、そっちも見せてと言わんばかりに俺の口元を見つめてくるから、仕方なく俺も舌を出す。
彼女はニコッと効果音が聞こえそうな綺麗な笑顔を見せると、スマホを取り出した。
――パシャッ
シャッター音が鳴り、俺に画面を見せてくれる。
「やば俺、気持ち悪っ。笑」
写真には、真っ青な舌を出した俺が写っている。仕返しに俺もスマホを出して、白沢にもう一度べーっとしてもらいパシャリと写す。
……そんな他愛もないやり取りが、ものすごく楽しくてドキドキして。恋ってすげーな……とか柄にもなく思っていたら、LINEの通知音が鳴る。
『一つお願いがあるんだけど』
差出人は、隣の彼女。
何?と顔を見れば、すぐに次の文を打ち込んで……
『さくらって、呼んでほしい』
画面を確認してすぐ彼女に視線を戻すと、照れたように笑ってる。
「……さくら」
呼べば、頬を赤らめて嬉しそうに俯くその姿に……認めたばかりの恋心がとめどなく溢れ出てきて。身体中が熱くて、おかしくなりそうだった――
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