1-14.夏祭り①




――夏祭り当日。


 まだ明るい時間帯からチラホラ屋台が始まって、少しずつ人が増えてきた頃。



「うぃーっす」

「櫂、久しぶり~!!」

「おう」


 先に男3人が待ち合わせ場所に集合する。


「櫂のお友達、はじめまして!岸田光太郎です!!」

「俺は浅生祐貴。よろしく~」

「にしても、すーげー髪だね!!笑」


 初めて会う二人の会話を聞きながら、周りを見渡す俺。



……あ。来た。


「久しぶり~♡」


 浴衣姿の女子二人が俺たちの方にゆっくりと歩いてくる。


 普段よりもちょっとテンション高めな大野は、黒の浴衣で髪をハーフアップにしていて……裏の顔に寄せてきたようだ。意外とよく似合ってる。


「…………」



 その後ろで大きな目をキラキラさせて、俺たちの反応を待っている彼女。


 俺の脳内フィッティングを覗かれていたのかと恐怖を覚えるくらい……その淡い桜色の浴衣は、俺のイメージした通り、白沢によく似合っていた。


 いつもはまっすぐに下ろしている髪も、頭のてっぺんで一つに丸く纏め、桜のモチーフのヘアピンを付けている。


 ふいに、目が合った。


 “ねぇ、どうかな?”――俺の耳には、そんな声が聞こえた……気がした。




「やばいよ……。さくらちゃん、可愛すぎるって……」


 光太郎が、感嘆の声を漏らす。


「うん!さくらちゃん、可愛いわ~」


 ニタニタしながら便乗する祐貴。



「……ねぇ、私は?!」

「ん~お前はまぁいつも通り?笑」

「はぁ?!そんなこと言って、本当はキュンとしてんじゃないの~?」

「するか馬鹿。笑」


 仲良さげに話してる祐貴と大野を見て、キョトン顔してる白沢。


 おいおい……!元から二人が知り合いなことがバレそうで、独りヒヤヒヤしてる俺。



「さくらちゃん、何食べる?」


 光太郎は白沢に近づくと、やさしく話し掛ける。彼女は楽しそうにニコニコしながらスマホを取り出すと、何か文字を打って答えていた。


「…………」



……俺が考えた会話のスタイル……。


 いつの間にか、光太郎ともその方法で会話をしている白沢。


 俺とだけじゃ……なかったのかよ。


 目の前で、スマホ片手に会話を楽しむ二人の姿を見せつけられて、なぜだか俺は、だんだんとむしゃくしゃして来る。


「櫂ー?こいつがりんご飴ってうるせーから行ってくるわ」

「……おう」


 祐貴と大野は、屋台が立ち並ぶ大通りへと先に歩いて行く。



「櫂ー!俺、さくらちゃんとたこ焼き買ってくるけど、一緒に行く?」

「…………」

 

 嬉しそうに頬に皺を寄せて笑う光太郎。



……分かってる。光太郎に悪気がないことくらい。


 でも俺は、なんか素直になれなくて。むしゃくしゃして、イラついて、つい……


「いーよ、俺は。二人で行ってくれば?」



 そう言ってしまった。光太郎はたぶん、俺が気を利かせたとでも思ったんだろう。



「え、いーの?じゃあさくらちゃん、行こっか!!」


 早速、大通りへ向かおうと白沢に呼びかけている。


 俺は、初めて味わうこのモヤモヤした感情が気持ち悪くて。意味もなくスマホを取り出してテキトーにSNSアプリを立ち上げた。



――と…………


「……え?」



 腕に何かが触れて顔を上げる。



 白沢が俺の服の袖をつかんでいた。俺をじーっと見つめると、何かをスマホで打ち始める。


『一人になっちゃうよ?』

『一緒に行こうよ』


 LINEに入ったメッセージ。顔を上げると、ね?と俺に語りかけるみたいに首を傾ける彼女と、ぴったり視線が合う。


 嬉しくて、可愛くて、ドキドキして……。


 直接触れられてる訳でもないのに、腕がポッポと熱くなってくる。




 これは……恋なんだ。


 きっと……いや、絶対。


 このとき俺は、ついに自分の感情に正式な名前を付けたんだ――

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