1-13.ザワザワ



――季節は過ぎ、夏になった。



「うぃーっす」

「お前……それやり過ぎだろ。笑」


 夏休みに入ってレインボーになった祐貴の髪を見て、苦笑する。



「赤でもレインボーでも大して変わんねーだろ?笑」

「ははは……」


 色白でキツネ顔の祐貴。ど派手な髪形をこれまでも散々見せられてきたけど、結構どんな髪型も似合ってる。ムカつくから、本人には言わないけど。



「もーすぐ夏祭りじゃねー?」

「あぁ……うん」


 俺らの地元の有名な夏祭り。巨大な神輿がいくつも出て、屋台の数も半端ない。全国各地から人が集まるくらい規模の大きな祭りだ。



「行くっしょ?」

「んまぁ、お前が行くなら……」

「もち!どーせなら女子と行きたいなぁ~」


 まぁ、そう言うだろうと思ったけど。



「じゃ、俺が麻未誘うからさ。お前あの子誘えよ」

「は?!いーよ俺は別に……」

「んなこと言ってねーでさ。夏祭りだぜ?浴衣姿、見たいだろ?笑」

「…………」


 言い返せない。なんでだ?


 浴衣か……。頭の中で彼女にフィッティングを開始する。水色も似合いそうだな……いや、紺とか黒で大人っぽいのも良いな……でもやっぱ、名前に因んで桜色……


 って、俺はやっぱり、どうかしている。



「――あ、麻未ー?お前さぁ、月末の夏祭り一緒行かねー?ん、浴衣必須で……」



 俺が脳内で一人ツッコミしてる間に、早速大野に電話してる祐貴。



「おーし。麻未OKだってさ。さくらちゃん……って、あの子だよな?あの子にも伝えとくって言ってたけど。いちおお前からも誘っとけよ?」

「別にあいつが誘うなら俺から連絡しなくても……」


 言いかけたところで、


「おーおービビってんじゃねーよ。だせーぞ!笑」


 祐貴がケラケラ笑いながらストレッチを始める。別にビビってなんかねーし。やたらとムカつく。



「……分かったよ、誘っとく」



 反抗するように答えると、レコーダーに手を伸ばす。大音量のHIPHOPが流れ始め、俺たちは音楽に身体を委ねた───

 





――その夜、部屋のベッドの上でスマホを開く。



 ドクドク……ドクドク……


 心臓の音が徐々に大きくなってくるのが自分で分かる。やべー……めちゃくちゃ緊張してんな、俺。


 そんな自分に苛立って、悔しいから投げやりにメッセージを打ち込む。



『夏祭り行かない?』


 心臓がうるさくて、ムカつく。まじで何なんだよこれ。悩むのもだせーし、早く済ませたいからそのまま送信した。



……いや、待てよ?


 挨拶の一つもなしにいきなり誘ってしまった。大丈夫か?まぁでも、大野からも伝えといてくれるみたいだしな……




――シュッ


 頭の中で独り言ちていたら音がして、画面を見る。いつの間にか送ったLINEは既読になっていて返信も来ている。


『いいね』


 短い文の後に、ウサギが両手でグッドポーズをしているスタンプが送られてくる。



 とりあえず連絡できたし、断られなかったし。ほっとして少しずつ心臓の鼓動がペースダウンしてくる。


――シュッ


 また音がして、画面を見ると……



『こうちゃんも一緒にいい?』


 こうちゃん……光ちゃんって?!まさか、光太郎?!あいつらいつの間に連絡先交換してたんだ?


 せっかく落ち着きを取り戻していた鼓動が、再び速さを取り戻す。



『もちろん』


 全然問題ないように装ってそう返事をし、スマホを閉じた。


 なんだろ……すげーザワザワする……。



 光太郎と白沢が連絡を取り合ってるのを想像するとイライラして、なぜだかめちゃくちゃに、嫌な気分だった――

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