1-10.発作?
高校生活は、想像していたよりもずっと心地良いものだった。
それはきっと……
「……いた」
彼女がいるからだ。
2階の教室の窓から顔を出して覗くと、今日もいつものように中庭のベンチに座って本を読んでいる白沢を発見。
そこに自分だけの空間が広がっているように集中して本を読んでいる彼女を、ただ見ているだけなのに……こんなに心が落ち着くのは、なんでだろうか。
「――おーい!!」
急に、短髪で猿みたいな顔をした男が、大声で呼びかけながら彼女に駆け寄って行く。俺は上から二人の様子をじっと見ていた。
パッと顔を上げて、不思議そうにその男を見る白沢。
「俺、1組の
2階の窓までしっかり聞こえてくる挨拶の声。顔をしわしわにして笑うその顔は、いかにも良い奴そう……だけど。
「…………」
明らかに戸惑っている白沢。そういえば、彼女がこんな風に誰かに話しかけられているのを見たのは初めてだ。
というのも、もう既に学校中で“喋れない女”はすっかり話題になっていたし、訳アリの人間にわざわざ関わるのも面倒なのだろう。皆、白沢を避けているように見えた。
そんな中、無鉄砲に話しかけてるあいつは、一体何を考えてんだか?
白沢はペンとメモ帳を取り出すと、何かを書いている。
「……白沢さくら……さくらちゃんって言うんだ。良い名前だね!」
その猿みたいな男は、デカめな声でメモを読み上げると、また何やら質問をし始める。次々と話しかけてるように見える。さすがにこの距離だと全部は聞き取れない。
白沢は質問攻めをされて困っているのが、遠くからでも分かった。
視線を斜め下に向けて、俯いたまま口を結んでいる彼女を見て……俺は教室を出た。
中庭に急いで走る。階段を駆け下りて外へと出ると、先程の二人を発見。
ゆっくり近づくと……
ん?彼女の様子がおかしい。手足はガクガクと震え出し、顔はどんどん蒼白くなって。肩が上下しているのが制服越しにも分かるほど、息も荒くなっている。
「……ごめん、さくらちゃん……大丈夫?……なんか俺……ごめん……」
岸田という奴も焦り出している。おそらく身体を支えようとしたのだろう。岸田が彼女に触れようとした瞬間――
……バタンッ……
白沢はその場に倒れた。
「……おい!白沢!?大丈夫か?!」
すぐに駆け寄って身体を起こさせる。顔面蒼白で、全身がブルブルと震えている。これは……貧血か?それとも何か発作か?
2階3階の各教室の窓から、生徒たちが顔を出して見ている。周りにも人が集まってきた。身体をゆすって声を掛け続けると、白沢は目を開いた。
「……白沢?……よかった、意識はあるみたいだ……」
彼女は俺の顔を見ると、安心したような顔をした……気がした。
「――何?!何があったのよ、え、さくら?!」
人ごみを掻き分けて、大野が飛び込んでくる。
「……すいません。俺が沢山話しかけたせいで……」
岸田が謝罪する。大野はすぐ状況を理解したらしい。白沢の頭を撫でて、ギュッと抱きしめた。
「もう大丈夫だよ。怖かったね……さくら」
大野は、まるで子供を宥めるかのように優しい声でそう言うと、
「……この子、人と関わるのが苦手で。ちょっとビックリしてしまっただけなので、心配しなくて大丈夫です!」
明るく岸田にそう言うと、白沢を抱き上げようと脇の下に腕を滑らせる。
「ちょ、ヤンキーくん。手伝って」
「……おう」
大野に言われるがまま、俺は反対側の肩を支え、保健室へと向かった──
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