1-9.恋





――週末、俺は祐貴と一緒に買い物に出掛けた。


 古着屋で服を見て、本屋で雑誌を立ち読みしていると……



「……あれ?麻未じゃね?」


 祐貴の声で、誌面から顔を上げ、窓の外を見る。


 楽しそうに笑いながら本屋に向かって歩いて来る大野の隣には、淡い小花柄のワンピースを着た白沢の姿があった。




「……祐貴」

「おん?なんだよ」

「お前と大野……あの……麻未ってやつが知り合いなの、秘密な?」

「……は?なんで?」

「いーから」


 彼女に知られてはいけない。親友のあんな裏の顔なんて知ったら、彼女はきっと傷つくはず。俺は咄嗟に祐貴を口止めしていた。




「……え?!最悪ー!ヤンキーくんじゃん」


 大野は祐貴を見て一瞬だけ焦った顔をしたけど、すぐにいつものテンションに戻る。



「るせーよ」


 隣に目を向けると、いつもみたいにニッコリ口角をあげる彼女。まるで……


“会えて嬉しい”


 そう言ってくれてるみたいだ……なんて、俺はやっぱりアホか?



「うぃーっす!」


 黙ってることに耐えられなくなったらしい祐貴が、大野めがけてわざとらしく挨拶をぶち込む。



「はじめまして~」


 大野はなかなかの演技派だ。自然に挨拶を返すと、



「行こ、さくら!」


 自然な動きで白沢の腕に手を絡めて、歩き出す。ぼーっとその後ろ姿を見つめていると、急に白沢がこっちを振り向く。



『ま・た・ね』


 一文字ずつ口を大きく開いて、そう言ったのが分かった。



──ドックン……



……なんなんだろう?この気持ちは。胸の奥底にある小さな灯火が、また少し大きくなった気がする。




「……ほ~ん。あの子か」


 おそらく、俺らの言葉のないそのやり取りは見られていたらしい。ダボダボのワイドパンツのポケットに手を突っ込んだ祐貴が、横からニタニタした顔で俺を見てくる。



「え、なにが?」

「いやいや、とぼけてんのか?笑」


 つーか、なんでこいつはこんなに楽しそうなのか。本屋だからか声は抑えてるけど、顔だけ見れば大爆笑の画。



「お前のさっきの顔、鏡で見せてやりたかったよ。笑」

「……は?どんな顔だよ」


 くだらねー冷やかしにイラつきながらも、気にはなって。どーでもいーけどってフリして、祐貴の言葉を待つ。



「恋……してます、って顔?笑」


 どっかの女性アイドルがやりそうな、顔の前で手を組んで拝むポーズをする祐貴。女みたいな高い声を出して、そんなことを言ってくる。



「……祐貴……」

「んだよ……そんな変な顔して……」



 最近ずっと、疑問だったこと。



「恋って何?」

「は?!」

「好きって……どんな気分?どうなんの?」


 俺は真面目に聞いていた。

 真剣に分からなかった。


 恋ってなんなんだろう?どんな気持ちのことを言うんだろう?白沢に会うたびに感じるこのこそばゆい変な感覚は?



……これが恋?まじで全然わかんねー。




「お前……それ、俺に聞くか?笑」


 祐貴は茶化すようにそう言うと


「あ゛ー、喉乾いたー。どっか入ろーぜー」


 ダルそうに歩き出す。……そうだよな。こいつに聞いたのは間違いだったかもしれない。



 でも……後から聞いた話、祐貴はこの時思ったらしい。



「櫂、本気まじで恋してんじゃん」と――

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