1-8.裏の顔



「……まじかよ」

「……は?!……なんでいんの?!」


 祐貴が呼んだ二人の女。エリカと………



「マミ……って、お前か……」


 目の前に現れたそいつは、いつも学校で会う姿とは全然違って。派手なメイクに胸元の開いた服を着て、煙草を吹かしてる。



「…………」


 人間って分かんねーもんだな。真面目で陽気で、いかにも元気印みたいなこの女に、まさかこんな裏の顔があったとは。



「いやぁ驚いたわ。まさか櫂と同じ高校だったとは。笑」


 ニヤつく祐貴。斜め向かいに座る彼女に、机に身を乗り出すようにして話し掛けている。いやいや、俺の方が驚いたっつーの。


 大野は煙草の日を灰皿で打ち消すと、



「……こいつねぇ、あたしの天敵なの。笑」


 意味不明なことを言って、手を挙げて店員を呼ぶ。学校とは別人みたいな見た目をしてるけど、店員に注文をする姿は俺の知ってる大野そのもの。愛想よく、にこやかに会話をしている。


 注文を終えて、向かいに座る俺をスンッとした目で見てくる。



「つーかさ、なんで祐貴と繋がってんの?」

「こないだカラオケでナンパしたんだよ。なー?」

「うん、楽しかったねー♡」


 これは……もしかして……



「……お前ら、ヤッたの?」


 唐突に聞けば、プッと口に含んだウーロン茶を吹き出す祐貴。


 向かいのエリカが「きたなーい!」とか言って顔を拭く素振りをしながら騒いでる。



「……さぁ?どうでしょー?」


 意味深に笑う大野を見て俺は察した。

……事は済んでいるらしい。



「こうゆうの、知ってんの?あいつ」

「あいつって誰よ?」

「……んだから、……白沢」


 純粋に気になった。白沢は知ってんのかなって。



「ふーん。やっぱりね。気になんだ?」

「はぁ?!別にそんなんじゃねーし」

「へー。じゃあ教えない」


……ムカつく。

 イラついたけど、やっぱり気にはなる。


 あの澄んだ瞳を思い出したら……。


 隣を見ると、祐貴とエリカはテーブルを挟んでスマホを一緒に覗き込み、イチャついてる。


 悔しいけど、ここは素直になってみるか。



「……気になるよ」

「え?」

「白沢、知ってんの?」


 俺が言うと、大野は何か傷つく言葉でも言われたかのようにシュンとして、



「……いやだ」

「はぁ?!」

「あーー……もーー……」


 よく分かんねーけど、一人でイラついて前髪をわしゃわしゃしてる大野。意味不明過ぎるから、黙ってじっと見ていると……



「――知らないよ、さくらは。何も知らない」


 大野は寂しそうに言う。


……そっか。あいつ、知らないのか。



「……んじゃ、俺はエリカと帰るわ~」

「かいくん、またね~♡」


 食事を終えると、祐貴はエリカと腕を組んで帰って行く。まぁどうせ、駅前のラブホにでも行くんだろーけど。




「……で、どーするー?」

「は?!」

「あたしは別にいーよ?笑」


……何を言ってんだこいつは。


「馬鹿か、お前は」

「えーなんで?いーじゃん。あたしらも行こ?」


 俺の腕に手を絡みつけてくる大野。

……いやいやいや。



「無理」

「なんで?」

「なんでって……」


 そう聞かれると、返答に困る。別にブスだとか体型が酷いとか……そうゆうわけでもねーし?相手が誰かなんて、俺ん中じゃどーでも良くて。



「俺そーゆーの興味ねーから」

「……へぇ~」


 ニヤついた顔で俺を見てくる。



「ヤンキーくん、童貞なんだ~?」

「……るせぇよ」

「ふっ、ウケる。笑」


 俺の全身を下から舐めるように見ると、呆れたように笑ってる。


 つーか、なんでこんなに寂しそうな顔をして俺を見るのか。まったく理解不能。


 そもそも、高校生でこんなに性生活乱れてる女って普通なのか?いや、普通じゃねーよな。



「お前さ……なんか嫌なことでもあんの?」


 なんとなく、何かの憂さ晴らしをしてるような気がして、聞いてみる。


「……あんたには関係ない」


 大野は絶望感を纏った目をして俺を睨むと、一人で駅に向かって歩いて行った―─

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る