1-2.喋れない?女
「──なんだ、君!その髪の毛は!」
ダルさを感じながら何とか歩き、やっと校門に辿り着くと、教師と思わしき小太りのおっさんにいきなり怒鳴られる。
「始業式にそんな頭で許されると思ってんのか?!」
昨日染め直したばかりの明るい茶髪を、グアシッと鷲掴みにされる。
「……っいってぇよ、放せ……!!」
髪を引っ張られたまま職員室へと連行された。
「担任呼んでくるから、ここで待ってろ!」
小太りの教師はそう言うと、俺を入口で待たせて職員室の奥へと入って行く。
別に逃げる気も暴れる気もねーから、入口の壁に寄りかかり目を瞑って待つ俺。
あぁ……ダルッ。さっさと帰ろ。
――コンコンッ
俺のすぐ横にあるドアをノックする音がして、パッと目を開けて見る。
「……あ」
ついさっき会ったばかりの、喋らない女の子が、立っていた。俺の様子を窺うように、チラッとこっちを見る。
「――あぁ、
職員室から出てきた40代前半のショートカットの女性教員。どうやら、喋らない子はこの女性教師を尋ねてここへ来ているらしい。
「一応この書類、記入しておいてくれるかしら?全面的にサポートはさせてもらうつもりだから。あまり気負わず、楽しい学校生活を送ってほしいなと思ってる」
女性教員は、喋らない子に優しい笑顔を向けている。
「あ、そうだ。書類もう一枚あったんだ」
思い出したように呟くと、再び職員室へと消えていった。
俺がじっと見ていたからか、彼女は訝しげな顔してジロリとこっちを見てくる。
手元の書類に目を向けると、右上の余白に『白沢さくら』と鉛筆でメモ書きがしてあった。おそらく先程の女性教師の字であろう。
「お前……もしかして、喋れない病気かなんか?」
二人の会話を聞いてたら何となく分かった気がして。別に遠慮する必要もねーかと、勢いで聞いてみる。
白沢は一瞬困った顔をして首を傾げた後、ポケットからボールペンとメモ帳を取り出した。サッとペンを走らせる。
『そうかもね』
顔を寄せるようにしてメモ帳を覗くと、女性らしい綺麗な字で、そう書かれていた。
驚いて顔を見ると……ニコッと効果音が聞こえそうなくらい、上手に口角をあげて微笑んでる。
今朝は気が付かなかったけど……よく見ると、けっこう可愛らしい顔をしてる。
焦げ茶色の澄んだ瞳。自然にクルンとカールしてるまつ毛。少し目尻の垂れた大きな目。鼻筋も通っている。
決して派手な顔立ちではないものの、日本的で素朴な可愛さって感じか?よく分かんねーけど……癒し系ってやつ?
「おーおーおー、君が噂の
――ガラッと勢いよくドアを開ける音がしたかと思えば、この近距離には似つかわしくないボリュームで話しかけてくるガタイの良い教師。
身長180は優に越えているであろう大柄のこの男――阿部と名乗ったこの教師が……どうやら今日から俺の担任らしい。
何が面白いのか知らねーけど、ガハガハと笑いながら俺の肩をドスッと叩く。
「よーし!俺は正直、見た目なんてどうだっていいじゃねーかと思ってんだがな。ま、しょっぱなだし、いっちょ行っとくか~!」
担任は俺の腕をもぎ取る勢いでガシッと掴むと、楽しそうに笑いながら俺を引き連れて歩き出した。
振り返ってチラリと見ると、白沢と視線が合う。
結局俺は、今は使われてなさそうな応接室に連れて行かれ、髪を黒く染められたのだった――
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