03:イタズラねこ鍋
「そういえば、俺のいた世界では猫鍋っていうのが流行ってたんだよな」
「猫鍋……って、猫を食べるということですか?」
「え、猫って食えるんスか!?」
今日も無事に営業を終えた閉店後の店内。
クッションの上でくっついて丸くなる
何気ない話題のつもりだったのだが、二人からは信じられないものを見るような目を向けられる。
それを知らない人間を相手にしているのだから、予想の範囲内といえばそうだろう。
「いや、そうじゃなくて……まあ、食べてる国もあったかもしれないけど。猫鍋っていうのは、うーん……つまり、こういうことだ!」
説明をするよりも、実践してみた方が早い。
そう思った俺は、大きめの鍋を持ち出してカフェの一角にそれを設置してみた。
早速興味を示したのは、イタズラ好きな
暫く鍋の匂いを嗅いでいたと思ったのだが、
そんな
躊躇無くその中に入っていくと、収まりのいい位置を見つけて
「これが……猫鍋……!」
「ぎゅうぎゅうですが、可愛いですね」
「だろ? もっと大きい鍋だと何匹も入ったりするし、鍋じゃなくてもいいみたいだけど」
完成した猫鍋を見た二人は、俺の言いたいことを汲み取ってくれたらしい。
こうしたワードを広めていくためにも、猫鍋用の鍋を揃えるべきかと思案していたのだが。
「……店長、オレ思いついたかもしんないっス」
「え?」
ぽつりと呟きを落としたグレイは、そのまま足早に調理場へと姿を消してしまった。
それからコシュカと二人で店の掃除と片付けを終えて、空腹を感じ始めた時だ。店内に、食欲を刺激するような香りが漂ってきた。
その匂いの元は当然調理場の方からで、ほどなくしてグレイが鍋を手にやってくる。
「新メニューできたんで、試食してもらっていいスか」
「えっ、今作ってたのか!?」
その行動の速さに驚くばかりだが、空腹なこともあって食事が出てくるのは素直にありがたい。
さらに新メニューともなれば、どんな料理が登場するのかも楽しみだ。
鍋の蓋を開けると、もわっと溢れ出した熱い湯気に視界を奪われてしまう。
それを払って見下ろした鍋の中には、先日のプレートとはまた違った可愛さが溢れていた。
「これって、猫鍋?」
「鍋じゃなくて汁物でも良かったんスけど、せっかくなんで」
「とてもいい香りがします」
ぐう、と意図せず俺の腹が鳴るが仕方がないことだろう。
鍋の中にはきのこやネギのほかに、猫の形をした白い何かがいくつも浮かんでいる。
椀に取り分けてもらい、俺とコシュカは早速試食をしてみることにした。
(これって……すいとんか!)
試しに一口食べてみると、もちもちとして弾力のあるその食感にはよく覚えがある。手軽なので、一人暮らしをしていた頃には度々作っていた。
スープは出汁と醤油がベースとなっているらしい薄味だが、優しい味わいが空っぽの胃袋に染み渡る。
「野菜、今回は魚の形にしてあるんですね」
「ああ、猫だらけにしちまうとメインがぼやけるかと思ってな」
言われて、俺は野菜が型抜きされていることに気がついた。あくまで主役は猫の形のすいとんで、大根やにんじんといった野菜類はスープの海を泳ぐ魚だ。
「……ん!? あれ、コレって……」
「お、店長もしかしてアタリ引きました?」
「アタリっていうか、ハズレだろこれ!」
感心しながら食べ進めていた俺は、突如として口の中に広がった甘さに顔を
何事かと思って味わってみたのだが、どうやらすいとんの中に餡子が入っていたようだ。
「今回の鍋は、
「なるほど、だから具材の中にカボチャも入っていたんですね。前回は普通に可愛くて美味しいメニューでしたが、これはドキドキも味わえるかもしれません」
「まあ、一つくらいなら悪くないかもな。国王陛下から注文が入った時がちょっと怖いけど」
それで怒られることはないだろうが、従者のルジェ辺りから小言を言われそうだと思った。
「ドキドキ要素はともかく、普通に美味しいし見た目も楽しいし、これも新メニューに採用だな」
「よっしゃ! じゃあ提供までにもうちょい改良を重ねてみます」
こうしてまた、Smile Catには『イタズラねこ鍋』という新たなメニューが加わることになったのだった。
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