過去のやり直し高校生活は女難の日々です 【しょーと】

加糖のぶ

哀に生きる者

第1話 甘くて苦い記憶(by 村上)




 2月14日。


 世間一般では、バレンタインデーと言われる日だ。


 バレンタインデー、または聖バレンタインデー・セイントバレンタインデーは、キリスト教圏の祝いで主に欧米で、毎年2月14日に行われるカップルが愛を祝う日とされている。


 元々269年にローマ皇帝の迫害下で殉教した「聖ウァレンティヌスに由来する記念日」だと、主に西方教会の広がる地域においてかつて伝えられていた。


 まぁ、バレンタインデーを簡単に例えるなら…… 「女性が男性にチョコレートを贈る日」と言う考えが一般的だ。


 そんな2月14日では感謝を込めて女子から友達、好きな人に手作り・義理関係なくチョコレートが渡される。


 ただ、そんな一大イベントに憎悪の気持ちを爆発させている愚か者がいた。


 勿論その男こそ……村上だ。


「………クソが、何がバレンタインデーだ……舐めやがって、そんなに黒いものが食べたいなら俺のう○こでも食べさせてやろうか………」


 そんな事を1年「F」クラスの教室内の自分の席に座りながら村上はブツブツと呟いている。


 ただ、呟いているだけでは無くある人物の方を睨め付けながらだ。


 そんな村上の憎悪の目線の先では慎二が沢山の女子達の対応をしている最中だった。


「ちょっ!?君達!先輩方も落ち着いて下さい!チョコなんて幾らでも貰いますから!!喧嘩しいで下さいよ!」


 慎二の周りでは慎二へとチョコレートをあげようとしている女子生徒達で溢れかえっていた、その中にはお馴染みの優奈や美波、雪を含む慎二の幼馴染に加えて生徒会のメンバーも勢揃いしていた。


 そんな光景を見せられたチロルチョコすら貰えなかった村上は何も行動を起こさないわけが無く……


「………お前ら、分かっているな?バレンタインデーでチョコを貰う奴&女子とイチャイチャしている奴には……氏あるのみだ!!」

『『お、おう………』』


 そんな事を周りに集まっている「F」クラスのクラスメイト達に伝える様に呟いた。


 だが、何故か今日に限ってクラスメイト達の反応は何故かいつもより鈍かった。


 なのでそれが気になった村上はクラスメイト達の顔を見てみたら………皆何処か申し訳なさそうな顔を村上に向けていたり、顔を背けているクラスメイト達がいた。


 そんな皆の顔を見た村上は悍しいある事に行き着いてしまった。


 それは………


「ま、まさか、貴様ら……女子にチョコを……貰ったとでも言うのか?」

『『…………』』


 今、村上が聞いた通り女子にチョコを貰えたのかの定かだ。


 村上に問われたクラスメイトの皆は無言ながら懐から大小の綺麗にラッピングされたお菓子の様な物を取り出した。


 すると、驚いている村上に………


『『ごめん、俺ら……チョコ貰ったんだ』』


 と言うのだった。


 それを聞いた村上は………


「くぁwせdrftgyふじこlp!!?」


 と、言葉にならない悲鳴をあげてしまった。


・ 


 あれから少しして落ち着いた村上はチョコを貰えた理由を聞いてみる事にした。


 何故なら自分が貰えない中、自分と同類のクラスメイト達が女子からチョコなど貰えるはずが無いと思っているからだ。(※ただの偏見)


「………お前らどんな手品を使ってその……チョコを貰った?賄賂か?賄賂なのか?」


 「チョコ」と言う時に苦い顔を浮かべていた村上はそんな事をクラスメイト達に聞いた。


 だが、皆して首を振る。


 なら「何故貰えた?」と聞こうと思ったらクラスメイト達が自分から口々に話し出した。


『………村上には悪いと思っているが俺達は……レクリエーションの時や体育祭や由比ヶ浜先生を救う時に女子に良いところを見せていたんだ』

『そう、だから俺らはそんな女子達にチョコを貰えた』

『だが村上、お前はどうだ?レクリエーションの時や体育祭の時は女子に気持ち悪がられるだけで何もしてこなかった……だから……お前だけチョコをば貰えないんだよ』


 そんな事をクラスメイトの皆は村上に向けて口々に言った。


 とうの村上は………


「………んな、バカな………」


 と、呟くと膝を床につけてorzの様な体勢になっていた。


 村上はそんな事はありえないと思っているが、内心ではなんとなくは分かっていた。


 自分がやってきた所業の数々を、だから今もまだクラスメイトに色々と言われている村上はそんな話もう聴きたくたいと言う様にいきなり立ち上がると………


「チクショー、チクショーー!!?」


 と、叫び教室を孟スピードで出て行ってしまった。


「村上君!?」


 そんな村上の様子を横目で見ていた慎二は何やら様子のおかしい村上を止めようと思ったが……周りの女子生徒達がよしとしてくれず。


 何もできず、ただ村上の走っていくところを見ていることしか出来なかった。


 そんな村上の様子を見ていたクラスメイトの皆は………


『………ヤベ、やり過ぎたわ』

『どうする?あそこまで村上がおかしくなるとは思わなかったわ………』

『本当の事を言いに行った方が良いんじゃね?』

『………だな。本当は村上の分もあるし』


 そんな事を村上の分のチョコを掲げながらクラスメイト達は話していた。


 ただ、もう既に後の祭りで……昼休みなのに関わらず村上は学校を出ると商店街を頭を覆いながら歩いていた。


「くそっ!くそっ!舐めやがって!!なんで俺だけチョコが貰えねぇ……前田ならまだ良い。だが、奴等はおかしいだろ!なんであんなアホ達が貰えて俺が貰えない!!」


 自分に完全にブーメランな発言をしていた。


 そんな中、ブツブツと呟いている村上を周りにいる人々は気味悪く見ていた。


 ただ、今の村上にはそんな物目に入らず、入ってくるのはまだ昼時にも関わらず男女でイチャイチャしているカップルの光景ばかりだった。


 そんな光景を見た村上は尚も恨みの矛先を関係のないカップル達に向けそうになっている、だが、まだ残っている少しの理性が村上の凶行を止めていた。


 ………ただし、それも残りわずかで。


「あぁ……良いなぁ。羨ましい、妬ましい、忌々しい……いっその事………ヒヒッ!」


 村上は狂ってしまった様にそう呟くと今丁度近くを通り掛かったカップルに飛びかかろうとした、その時。


「………お兄ちゃん?そんな怒った顔をしてどうしたの?お腹痛いの?」


 5歳ぐらいの幼女が村上に話しかけた事で間一髪村上の凶行を止められた。


 だが、村上のターゲットがその幼女に移ってしまった。


「………ヨウジョ?ヨウジョオォォ!!オレ、大好き……モウ君でイイ。フヒッ!ペロペロしたい!!」


 村上はそう言うと完全におかしくなってしまったのか村上の心配をしてきた幼女に襲い掛かろうとしていた。


 ただ、とうの幼女は村上の気持ち悪さ、おかしさに気付いていないのか首を傾げていた。


 そんな時「あっ!分かった!お兄ちゃんはアレが欲しいんだ!!」と何かを閃いたのか、その場で座ると持っていた白色の可愛らしいポシェットから……可愛らしい小さな包みを取り出すと村上の目前に掲げた。


「………コレは……ナニ?」


 幼女の不思議な行動に村上も動きを止めると聞き返していた。


「ふふっ!コレはね、チョコレートなの!」

「………チョ……コ?」


 そんな幼女の言葉を復唱する様に、初めて言葉を覚えた原始人の様に呟いた。


 そんな村上に幼女は笑顔を向けた。


「うん、チョコレートだよ?お兄ちゃん、さっきから大好きやペロペロしたいって言ってたし疲れてそうだからコレ……あげる!」

「オレに?チョコレートヲ?」

「うん!お母さんと作ったんだよ?ただね、量がチョビっと多かったからお兄ちゃんにあげるよ?」

「アァ、あぁぁ…………」


 そう言われた村上は話の内容をおかしくなりながらも理解できたのか涙を流した。


 その様子を見た幼女はどうしたのか心配そうにしていたが、村上はそんな幼女の優しさに触れて理性を取り戻せたのか普段通り表情を作ると泣き顔のまま立ち上がった。


「ありがとう。君のお陰で俺は救われたよ……良ければ、ここでチョコを食べて良いかい?」


 出来るだけ幼女に怖がれられない為に紳士的に振る舞い聞いた。


「うん、良いよ!」


 そうお許しが出た村上は幼女に貰ったチョコの包みを開けると少し勿体無いと感じながらも口の中に入れた。


 その瞬間、村上は……逝った。


 様な表現がふさわしい程に最高な気分になっていた。


「美味しい!甘い!甘い!!……うぅっ、苦節15年漸く念願のバレンタインチョコが俺も貰えた。それも幼女に………幼女にィィ!」


 天に向けて咆哮をあげる村……変態。


 村上は逆の意味でキチガイになっていた。


 流石にそんな村上の奇声をあげている姿を見て幼女も少し引いていた。


 だが、村上はそれでも構わない。


 チョコレートの甘さに酔ってしまったのか幼女に擦り寄ると話しかけた。


「本当にありがとう、ありがとう!君は俺の天使だよ!どうだい?この出逢いも何かの縁だと思う、だからお兄ちゃんと何処かに行かないかい?お礼に何でも奢るからさ!」


 その姿は周りから見れば完全に不審者のそれになっていた。


 だが、今の村上にはそんな判断もできず。


「え、えっとぉ……そのね?ごめんね!お母さんと買い物行かなくちゃだから!それに「変な」人には着いていくなって言われてるの!」


 そんな村上に幼女も何か危ないと危機感を持ったのか、言い訳を作り逃げ出そうとした。


 したが、村上は逃すわけもなく………


「大丈夫!俺は変な人じゃ無いからさ!それにそんな時間を取らせないからさ!コレは君へのお礼だ!だから受け取ってよ!そうじゃ無いとお兄ちゃん、悲しいなぁぁぁ?」


 そんな風に幼女の優しさに漬け込もうとする変態。


「で……でも………」


 それでも幼女は逃げ出そうとしていた。


 その時、天は幼女に味方をする様に助け舟を出した。


 ただし、村上にとっては地獄への片道切符を出す様に夢の終わりの始まりだった。


 いきなり誰かに肩を掴まれたので「良いところを邪魔をするな」とでも言いたげな忌々しい目を向けながら背後を振り向くとそこには………


 満面な笑みを浮かべる警察官の洋服を着る男性二人組がいた。


 そのうちの一人に話しかけられた。


「ちょっと、君。その子から離れようか?」


 村上はそんな風に警官の様な人……モノホンの警官の二人組に話しかけられて漸く気付いた。


 自分の姿が周りから見たらまんま不審者の事を。


 その事に絶望したが、既に遅し。


 幼女はもう一人の警官に保護されていた。


「………さて、君が今から何をしようとしていたのか一旦署に行って聞こうか?何、君の潔白が分かれば直ぐに解放されるからさ………多分」


 今もまだ村上の肩を掴んでいる警官は村上にそう伝えるのだった。


 そんな村上は………


「はぃぃ」


 と、蚊の鳴く様な声を出すだけだ。


 そのまま、幼女に見られながら警察官に署まで連行された。

 


 その時、村上は漸く真理に辿り着けた、やはりバレンタインデーはクソだと。


 そんな出来事があり村上のバレンタインデーは甘くて苦い記憶になった。



 後日談だが、村上が警察に捕まった事を知った慎二の奮闘のお陰でなんとか村上は解放された。


 その時にはもう村上は十分反省して何か逆に悟でも開いている様な状態になっていた。





 バレンタインはいいものだ。


 好きな人に、感謝している人に気持ちを想いを伝えられる場だ。


 だが、チョコを貰えない人は決してヤケになってはいけない。


 村上の様に苦い思い出になる恐れがあるからだ………


 チョコレートを貰えた人はラッキーという事で!

 



 



 




「非日常とは日常の延長線上に、突如として訪れるものである──」──


火炎かえん


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

過去のやり直し高校生活は女難の日々です 【しょーと】 加糖のぶ @1219Dwe9

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ