掌編小説・『バレンタイン』

夢美瑠瑠

掌編小説『バレンタイン』



                          掌編小説・『バレンタインデー』



 おれは高校生で、熱血柔道部員だ。汗まみれになって毎日柔道に励んでいるので、顔中がニキビだらけで、気色悪いことおびただしい。モテるわけがないのだが、それでも好きな女の子はいる。毎日勉強中ノートに気が付くとその子の名前ばかり書いている。毎日その子の夢ばかり見るし、授業中もその子の後ろ姿ばかり見てしまう。

姿勢がよくて、栗色の髪がさらさらした感じで、「たおやか」というのはこういう感じかと思う。ごくたまに会話をする機会があったりすると、ニキビ面が紅潮して鼻が潰れたイチゴみたいになる。

 その子のサクランボのような唇を見ているとキスしたくなるが、高校生同士なので欲望をじっと抑える。

 その子は道子というのだが、道子はいつもバニラの甘い香りがする。

 アイスクリームのようにうっとりさせるいい匂いで、「道子、好きだー♡」と I scream したくなる。


 内緒だが、道子に捧げる短歌を作ったりした。


<たおやめは 汝なりにし いとせめて 夢の通い路 ともに歩まん >


 かなりおかしいが、?3分で作ったからしょうがない。

 そうして、今年もバレンタインの日が近づいてきた。

 本命チョコをもらうのは無理だろうが、義理チョコでいいからもらいたい。


 仏壇に白膠木(ヌルデ)の木を供えて、護摩法要をして、一心に祈る。

「神様~仏様~閻魔大王様~どうか道子の心を僕に向かせてください~アーメン

釈迦牟尼仏~バレンタインにチョコをくれるように彼女の心を僕に開かせてください~ちーん」

 そのあとに般若心経を50回唱えて、祈りが成就するように、あらゆる神仏に懇ろにお願いをした。


 で、2月14日が来た。

 祈りが通じたのか?道子は義理チョコを素っ気なくくれたが、悪い事にそれは牛乳の入ったホワイトチョコだったので、おれは持病の潰瘍性大腸炎を再発してしまった。


「白い恋人」のせいで、「赤い血便」を見る羽目になって、おれはバレンタインなどと言うややこしいものがあるこの世をつくづく呪う、という可哀想な境涯に陥ってしまった。


<終>

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