幼稚戦隊オサナインジャー

 月華町に今日も朝がやってきた。朝食の席では幼稚園へ通う息子に制服を着せようと、妻が悪戦苦闘している。

 私は妻に朝食を作って貰えるだけでも感謝しなければ。

 普段ならば、子供のお弁当の残りを味けなく食べるだけの私なのだから。


「早く支度しないとバスが来ちゃうわよ大樹! あなた~今日帰りに大根とコンニャク買ってきてよ。お願いね」

 来たよ。仕事帰りにスーパーに寄るのは一行に構わないが、大根とは、またえらく目立つものを選んだものだ。

「ねぇ、聞いてるの?! 大根と……」


 これ以上の言葉は不要さ。妻の言葉を遮り、私は急いで返事した。

「分かった。わかった。大根とコンニャクな?」

 妻は満足そうに微笑み、元気に私達親子を送り出した。

 どうせ、もう一度寝直すだろうが。以前、具合が急に悪くなった私が通勤途中で家に帰った時にも、妻はベッドで高鼾だったっけ。


 家を出た私は大樹を幼稚園バスの所まで連れて行く。大樹は年中の5歳だ。

「お父さんは、お母さんの『シモベ?』おねえちゃんが言ってたよ。お父さんは、お母さんに逆らえないって」


 我が子ながら、年頃の娘の辛口の批判と言ったら! 大樹が何も解らないと思って言いたい方だいだ。


 大樹と娘の陽子は9歳離れている。別に再婚とかいう訳ではなくて、ただ単に『間違った』のだ。

 本当だったら、2つか3つ違いに作る予定だったのに、長い事私達夫婦には第2子が産まれず、もうとっくに諦めていた時に、ひょっこりと出来てしまった。


 妻も私も良い歳だったし、特に妻は一回経験した出産も、忘れ果てていたから諦め様としたんだが。

 陽子の喜び様が半端じゃなくて、押しきられた形に大樹は誕生したのだ。

 今では、陽子の部下として日々逞しく成長している訳なんだが。 

「お父さん、何を考えてるの? でね~お母さんが、お父さんの事を芽が出ない『ジャカイモ』だって……」


 私は勢いよく大樹の頭を叩いた。父の威厳というものを、こやつにも知らしめねばならないと。

「何するの? お父さん……」

 軽く瞳をうるませながら大樹は「お父さんのばかぁ~」と泣きながらバスに駆けて行った。


 これで良い。息子よ……世間の荒波に揉まれ、男は逞しくなるのだからな。

 おっと、仕事に遅れてしまう。私が本当のバス停まで走っていたら、隣に住む青山さんが爽やかに声を掛けて来たのであった。


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