第10話 無茶しやがって…。
そんなこんなで、アイは、しばらくは起きてこない…はず。
そして、15歳の姿に戻り、再び闘技場を見る。
モブ達は、そろそろ現実に戻りかけている。
闇落ちの件を知り、今度こそ心を入れ替えて精進するだろう。
『お前ら、これは他言無用な。頑張って、自分らの属性クラスに行って早く転生して世界を救え』
俺は、サオリ以外のモブ達に念話を送った。
「「「はいっ!」」」
ふむ。よろしい。
そこで、モブ1号が恐る恐る口を開く。
「あのぉ〜」
「言いたい事は後で聞く。とりあえず、みんなと一緒に校舎へ帰って自習しておけ。勝手に何か変な事を考えたら、責任は持てないぞ?」
俺はモブ1号以下、モブ達に釘を刺した。
闇落ちの瞬間を見たのだ。
こいつらがまともなら、もう
「あ、そうだ。今頃、教室に消えた2人の代わりに、新しい転生者予備軍が2人来ているはずだ。『先生が来るまで何もしないで、教室で座って待ってて下さい』とだけ伝えろ!余計な事は喋るな!余計な事はするな!隠してもわかるからな?俺は!いいな!駆け足!」
「「「はいっ!」」」
ダダダァァァァーーーッ!!
モブ共は、闘技場の広場から一斉に校舎に向かって走り出した。
闘技場は、観客席を除いたメインの広場が半径500m、外まで通じている通路が100m。
生徒達は、校舎まで約1.5kmマラソンをする事になる。
校舎とは言っているが、見た目はただのプレハブの建物だ。
学校の体育倉庫や工事現場にある、そうアレだ。
特に説明するような物ではない。
ただ、中が亜空間仕様になっているため、入り口を抜けると広大な空間に、教室をはじめ、生徒それぞれの個室、まぁ、寮みたいなものだ。
他に食堂や娯楽施設など、すべてが詰まっている。
そのプレハブに渡り廊下がついており、ここへ転生者予備軍が来るための、これまたサイズが小さめのプレハブがある。
10人が入っていっぱいいっぱいになるぐらいの小ささだ。
俺のクラスは、実質、転生者予備軍の選別クラスでもあるのだが、定員は10名と決めている。
人数が多ければ多いほど、闇落ち者が出やすい。
最大10人入れ替わる時だってある。
人数は、少なめが良いのだ。
来て、すぐに消える奴もいるしな。
あまり学校学校した作りだったり、中が快適な空間だとわかってしまうと、転生先よりも予備校の方がいい!と思う奴も出てくる。
それでは困るのだ。
予備校を開校した意味がない。
プレハブ作りの建物を見て、期待を裏切られた感を持つ奴、怒りを覚える奴、様々な感情が予備軍を襲うだろう。
第一印象で出鼻をくじく というやつである。
その環境を、素直に受け入れられる人材、どんな環境にも対応できる、そんな奴が異世界には必要なのだ。
☆☆☆
「さてと…」
闘技場に残ったのは、サオリ1人。
今の状況に狼狽しているかと思えば、そうではなかった。
1人で、跳んだり跳ねたり、火炎弾を掌から発射させて、それに追いついて円盤型の魔法陣で作った防御結界を出して防いでみたりと、1人でトレーニングしていた。
本当に真面目である。
そんなサオリの様子を、観客席から乗り出してガン見しているのはユウキの眷族であり、指導員の竜神達5人、3人はサオリの殺気で失神したため、さっき退場していった。
フッフッフ…どや! ニヤリ
とまぁ、寒いダジャレはさておき、サオリの魔力が圧縮される。
ゴゴゴゴゴォォォーーー!!
凄まじい魔力である。
そして、両手の平を前に突き出し、詠唱を開始する。
「いでよ炎よ!その力で悪しき魂を焼き尽くせ!ギガフレイム!!」
その詠唱と共に出現する、直径10mの太陽みたいな炎の塊。
(いやいや、サオリちゃん、それ、炎ってレベルの技じゃないからね)
「これが予備軍の人間…」
「ありえない…」
「転生して、その100倍の能力を得たら…」
口々に驚きの声をあげる竜神達。
「かぁーつ!神たる者、これぐらいの事で狼狽えるでない!未熟者!」
そんな竜神達に喝を入れたのはユウキ。
さっきから、俺の隣で静かに佇んでいたユウキだったが、眷族の狼狽ぶりに剛を煮やしたのか、コロシアム中に響き渡る声で、神力をまとった言葉で叱咤した。
流石は龍神、幾多の竜神を従え、龍神族の頂点に君臨する絶対無二の龍種の神。
平常運転なのはサオリのみである。
並大抵な神経ではない。
「いっけぇー!うりゃーー!」
掌から放たれる小さな太陽、物凄い火力である。
ズドォォォーン!
シュン!
太陽を放った瞬間、サオリが消えた。
発射された太陽の前に…少し後ろに下がった位置に移動したのだ。
これは転移ではない、高速移動だ。
「我が体に宿し闇の力よ!すべてを飲み込め!ブラックサークル!」
その詠唱で途端に現れる、直径200mはあろうかというような真っ黒な円形の陰。
輪っかが、中心に向かい、何層にも重ねられた、見た目は渦。
しかし、厳密には、ちまたのガリ勉君がよくしているメガネ。
ぐるぐるメガネとでも言うのか、そう、アレだ。
しかし、輪っかと輪っかの隙間を繋ぐようにルートが確保されている。
まるで丸い迷路でも見ているようである。
簡単に言えば、小さなエセブラックホールみたいな何か。
ズッバァァァァーーン!!
ズゴゴゴォォ……プシュー…。
小さな太陽は、小さなエセブラックホール風迷路に飲み込まれ、中心の黒い穴に、あっけなく消えていった。
バタン
どういう原理で、あの太陽を飲み込んだのかは定かではない。
この俺が見えなかったのだ。
常識を逸脱している。
どうやって習得したのか、どこで練習をしていたのか…謎だらけだ。
後で、こっそり聞いてみよう。
と思ったが、今はそれどころではなかった。
太陽が飲み込まれた後、サオリがぶっ倒れたからだ。
おそらく、原因は魔力の枯渇だろう。
濃密度の火炎魔法に、移動時に使った身体強化、移動時の空気抵抗に耐えるための上級防御シールド、闇魔法によるエセブラックホール生成…となると、200mの円ではなく、輪っか状の迷路にした理由も何となくわかる。
これは推測だが、大技を使う前にやっていたトレーニングに加え、自身にかけた魔法の重ねがけ、あの常識を逸脱する魔力全開の大技…円状のブラックホールを生成するには、魔力が足らなかったのだ。
「無茶しやがって…」
昔、日本で流行っていたセリフを言ってみた。
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