第9話 闇落ち者の末路

ドス黒い殺気を放っていた2人の体は、黒い小さな球体に変化し、まるで、シャボン玉が弾けるように、小さな黒い粒子になって 弾けて消えた を実演してみせた。

これが闇落ちである。


しかし、その魂が消えてなくなったのではない。

闇落ちした者の魂は、ランダムに飛ばされる異世界で魔石保有の魔物になるのだ。

その魔物に自我、つまり、理性はない。

どんな魔物になるかは興味がないから知らない。

闇落ち者の特性や、その異世界で必要か否かにより、魔物の種類が異なるからだ。


ただひとつ言える事は、魔物に転生した奴らは、その世界で狩られ、その魔石や素材は、そこで住まう人々の糧となる。

人の役に立つのだ。

ドス黒いオーラを放つ勇者や賢者より、よほど世の中のためになる。


あの手の輩は、仮に本来の転生をしたとして、最初はそれなりに頑張るだろう。

しかし程なくして、根底にある性根が姿を現し、元々、素質や力があり、活躍する事で名声を手に入れるため、その状態でそのまま、人々の平穏を脅かす存在となる。

いい迷惑だ。


「先生!これはいったい…」

サオリが何やら困惑しているようだ。

その他のモブ達も、何が起こったかわからない様子で表情をなくし、こちらを凝視している。


(あぁ…みんな、目の前で闇落ちをするとこ、見るのは初めてか…)


そうなのだ。

闇落ちする瞬間は一瞬…に見える。

闇落ちするタイミングがわかるのは、神格を持っている俺達家族と、その眷族だけ。

他の者には、四散した粒子すら認識できないだろう。

ただ いつのまにか消えていた という状態になるのだ。


ここでは、それが日常茶飯事、生徒達も、いちいち消えたクラスメイトを心配する事もない。


☆☆☆


「ふむ…妾が教えてやろうぞ!」

アイが観客席のその場、つまり、俺の横で腕を組み、仁王立ちになって叫んだ。


何?

アイの容姿がわからない?

髪型がわからない?

一人称が妾だから和服だろうって?


まてまて、早まるな。

それは先入観というものだ。

あまり痴女の容姿には触れたくないのだが、出会った頃はだったとだけ言っておこう。


アイと出会って間もない頃に、地球の知識を参考にして

「のじゃっ子は、和服を着てて、中盤で仲間になるのが定番なのでは?」

的な発言をして「知らぬわ!」と一喝された事がある。


「天魔殿?…」ニヤリ

気づくと、アイは俺の方向いて目を光らせた。

捕食者の目だ。


(また心を読まれたか…いや、顔に出ていたかもしれないな…)

そんな嫌な予感を漂わせたら案の定、アイが再び、今度は全員に向かって叫んだ。


「皆の者!しばし待っておれ!」

あー。やっぱりな。くるな…これは。

さっさと終わらせよう。


そこで、ユウキがアイに進言した。

「説明は私がしておきます。アイ様は心置きなく、ごゆっくりとなされませ」

「おぉ…流石はユウキじゃ!それではお言葉に甘えるとしようかの」

ユウキよ、卒なく気を効かせる、その姿勢は賞賛に値するが、人はそれをと言うんだぞ!


「旦那様、我らは 人 ではございませんので」

澄ました顔で言い返された。

俺は喋ってないけどな!


アイは俺の腕を掴み、何の仕草もしないで、何もない場所に、専用亜空間に通じる長方形の扉を出現させ、俺を引っ張って入っていく。

次元神の名は伊達ではない。


「ユウキの説明も必要じゃ。時間圧縮は少し引き延ばして、10分程で良いからの」

「はいはい」


アイちゃん、ウキウキである。


☆☆☆


10分後


「ふぅ…」

専用亜空間から出てきたのは俺1人。

アイは…失神してるので、そのままにしてきた。

しばらくしたら目覚めて出てくるだろう。


「説明は終わった?」

と、首をコリコリ鳴らしながらユウキに問いかける。


「はい!10秒で済むところを、10分に引き延ばして頂いたので、簡潔に説明いたしました!」

「ありがとう」

俺はユウキに一言お礼を言うと、闘技場内の生徒を見た。

予想通り、サオリ以外は真っ白に燃え尽きている。

つまり、魂の抜け殻状態、アニメでよくあるやつだ。

当然、顔もハニワみたいになっている。


その説明する時間に使った 時間圧縮。

これは、俺の能力である。

通常、指定した空間の時間、1時間を1秒に圧縮する。

今回は、圧縮を引き延ばして、つまり、少し圧縮率を緩めて、1時間を1分にした。

ただそれだけだ。


必要な時間を創造魔法で作り出し、時間という概念を一旦破壊して圧縮。

その後、破壊した時間の概念を創造魔法で固定したら、時間圧縮空間が出来上がる。


通常は、1時間を1秒にするわけだが、これが限界値ではない。

本気を出せば、1年でも10年でも1秒に圧縮できる。

今のところ、1万年を1秒に圧縮したのが最高記録である。

つまり、リアル時間で1秒の間、圧縮された空間では1万年を過ごす事になる。

つまり、1万年間、アレをヤリまくれるという事だ。


創造と破壊の神格を持つ、俺の持つ能力、創造破壊複合魔法オートカスタマイズのひとつが、この時間圧縮。


しかし、今回が短い圧縮だとしても、10秒であろうが10分であろうが、実質10時間という事実に変わりはない。

ヤル事も変わりはしない。

アイが喜ぶだけだ。


そもそも、俺達神一族は老いないから、できる所業なのである。


しかも、100年を1秒に圧縮しようが、たかだかアレをしたぐらいでは、体も体力も魔力もそのままなのだ。

人間なら、1秒以内に老衰で死ぬ。

間違いなくな。


コホン…話が逸れた。

本来、闇落ちの件は、生徒には伝えていない。

それを最初に教えてしまうと、サオリが神達を欺いて実力を隠していたように、消えた2人が悪意を表に出さないように、人により、あらゆる手段で闇落ちしないように画策するからだ。

モブ1号は、2人のみのだったわけだ。


(でもモブ1号は、あれだけ粗暴だったのに闇落ちしないんだよな…)

まぁ、途中で2人を止めたところを見ると、本来持っている資質は悪くないんだろう。

これで、あのガタイに強面の顔で、気が弱かったら、ある意味 テンプレ になってしまうから、そうではない事を祈ろう。


え?

お前、神だろ?誰に祈るんだよ?って?

そんなの言葉のアヤだ。


気にするな!

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