第7話 サオリ無双

「何が起きた?」

「今の何?」

目を覚ました予備軍達が一斉に起き上がり、キョロキョロしながら狼狽している。


だだっ広い闘技場内、右往左往する予備軍達は、まるでゴミ虫のようだ。


ドン!!!


再び放たれるサオリの殺気。

死に絶えるモブ共。

「うるさいぞゴミ虫共!」


途端に、サオリのキャラが変わった!!

俺を含めて、全員大爆笑!

つか、ゴミ虫って、サオリは読心術でも使えるのだろうか。


「ふぅ…やれやれ…」

いくらキャラを変えても、死んだ予備軍には聴こえてないからね、それ。


(はい、蘇生っと)


ドン!!!

(蘇生)


ドン!!!

(…蘇生)

これ、いつまでやるんだろうか…。


そこで、アイが叫んだ。

「サオリよ!それでは転生先でやっていけぬぞ!お前の転生種族、役職はなんじゃ!」

確かにね。


ワイワイガヤガヤ

「「「「今、何が起こっているんだ?」」」」

モブ共は何もわかってない。

つまり、何度も殺された事にすら気づいていないのだ。


「は!!すみませーーん。私は魔族で魔王に転生します!今度はちゃんとやってみます!」

お?言われてようやく気づいたようである。


モブが弱すぎて、技を出す前に終わるから、本人も気づいていなかったらしい。


「ごめんね〜。あなた達がそんなにもろいとは思わなかったんでぇ」

本当に真面目な子だ。

モブに謝っている。


「何言ってんだテメー!俺達に何をしやがった!」

「味噌っカスのくせに!」

「上から目線で語ってんじゃねーよ!」

モブ共は、顔を真っ赤にし、オデコに青筋を立ててがなり立てた。

サオリはそんなヤジを無視して、俺の方に向き直り、こんなお願いをしてきた。


「先生ー!今度は1人づつを3ターンやりますので、お手数ですが、随時蘇生をお願いできませんか?」

1人づつを3ターン、つまり、一度に蘇生させるのではなく、27回蘇生をしてほしいと言ってるわけだ。


「あぁ、お安い御用だ。存分にやれ」

そんな俺の言葉にサオリが意を唱える。


「申し訳ないんですが、存分にはできそうにありません!技を出す必要もないですからぁー!」

「あ、うん。好きなようにやっていいよ」

何をする気かはわからないが、とりあえず了承しておいた。


☆☆☆


影が薄かったため、俺の中ではモブ扱いだったサオリだが、もはやそういうレベルではないのは明白。

ちゃんと把握しておこう。


ペラッ

俺は、人差し指を上に向け、クルンと回して一枚の紙を生成した。

そこに、俺のサオリの詳細を写しだす。

これも、大気から生成したインクだ。


こうした些細な魔法でも、創造神の神格を持つ俺だからこそできる技なのだ。

創造魔法、ちょー便利。


プリントアウトされたソレは、いわばプロフィールを簡単にまとめた資料だ。

生徒の資料は、別の所に保管してあるが、俺はあまり見ない。

必要になったら、こうして引っ張り出してくればいいだけだからだ。


•神崎沙緒里 17歳

ここへよく来る年齢だ。

•死因 庭石の上から妖精の格好をして飛ぼうとし、滑ってコケて頭を強打、即死

バカじゃなかろうか。

•身長 155cm 太り過ぎず痩せすぎず

少し小柄。体格は普通。

•髪色 濃い赤茶のセミロング

ありきたり。

•目 二重のパッチリお目目

パーツは悪くない。

•瞳 黒

まぁ、日本人だしね。

•性格 内気、初対面には若干コミュ障の傾向あり

だからか、影が薄いのは。

•趣味 コスプレ、衣装制作、コミケ参戦

あー。これね。適正があったのは。

•転生先 第10次元世界 ユートピア改めデストピア

今は悪魔のユートピアだからな。

•種族役職 魔族 魔王

ここはスルー。

•転生特典 魔法社会における最高値

は?

•レベル 100

は?

•ステータス 全項目10万

は?


俺は、いつも気にしてなかった項目に、ちょっとビックリした。

これは基本的な転生特典だ。


予備校から本格的に転生する時は、全能力が100倍になって…って、これが予備校の特典なんだが、このサオリの数値は明らかにおかしい。


予備校特典は最低で、レベル1がレベル100に、ステータスは1000が10万になる。

だから異世界で無双できるのだ。

それ以降の能力向上は、本人の成長度合いによる。

最低値でこれだ。

優秀な者でレベル5あたりがいいところ。


(………)

俺はプロフィールとサオリを見比べながら、少し混乱した。


☆☆☆


アイは、そんな俺を見て、ホッホッホと笑っている。


やっぱり全部知ってやがったか!


サオリはというと、右掌をモブ共に向けて、俺の方を向き、何かを待っている。


「あ!」

「天魔殿らしいのう」ニヤニヤ

アイに軽く揶揄からかわれた気がするが、これは俺が悪い。

随時蘇生だ。

見てなきゃできない。

当たり前だ。


「サオリ、すまん!始めてくれ!」

「よろしくお願いします!」

サオリは元気な声で、俺の言葉にニッコリと笑い返事をすると、モブの方に真剣な顔で向き直った。


☆☆☆


「なんだテメー!やんのかゴルァ!」

いやいや、君たち、すでに何回も殺されてるからね。


ズドォォォーン!

ビッシャァァァーー!

「「「ひぃ!」」」

(蘇生)

その瞬間、全員が目をひん剥き、驚愕の様相になった。


ズドォォォーン!

ビッシャァァァーー!

「「「あわわわわ!」」」

(蘇生)


ズドォォォーン!

ビッシャァァァーー!

「「「た、助けてくれぇー!」」」

(蘇生)

逃げ惑うモブ達、しかしサオリは無言で文字通り順番に、散り散りに逃げ惑うモブの中からピンポイントで狙い打っている。

顔は素だ。

なんとなく、つまらなさそうにやってる雰囲気すらある。


ズドォォォーン!

「やめ…」

ビッシャァァァーー!

(蘇生)


「「「お、俺達が悪かっ…」」」

ズドォォォーン!

ビッシャァァァーー!

(蘇生)

容赦無しである。


サオリは、右掌から圧縮された殺気を放ち、端から順に狙い打っていた。

殺気を圧縮させる事で威力を上げ、指向性を持たせる事で1人づつ確実に…だ。

威力が上がっているため、肉片すら残らない。

赤い血が勢いよく後ろに飛び散っているようにしか見えない。


(また器用な事を…)

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