第37話『体の傷と心の傷』



『アコン、まずは……キラーラを止めましょう。あの子を引っ叩いてでも止めるの。デヴォルは確かに許せないけど、先にキラーラを止めるの』


 ルーナと契約し、鎧を纏った俺。

 そんな俺に、ルーナが叩くべきはキラーラちゃんだと言う。

 しかし――


「……いや、でもキラーラちゃんを傷つける訳には……」


 ロリコン紳士がロリを傷つけるなんて、そんなのあってはならない事だ。

 だが、そんな俺の心情を察したのか、ルーナは『あのね』と言葉を重ねる。


『キラーラを見て。あんなに泣いて……謝りながら……刃を振るってる。もうとっくに、キラーラは傷ついているの。それは、体の話じゃない。心が傷ついてる』


「心が?」


『誰かが止めないと、キラーラはずっと傷ついたまま。そんなキラーラを体を傷つけたくないからって放っておくのがロリコン紳士さんの……アコンの望み? 私は……私がキラーラなら……痛い思いをさせてでも自分を止めて欲しいって。そう思う』


「俺は――」


『それに、仮にデヴォルを倒したとしても、キラーラの暴走が止まるとは限らない。そもそも、私たちがデヴォルを倒そうとしても必ずキラーラがその邪魔をするわ。その時、私たちの意志が一致していないとまた固まる。だから……覚悟を決めて』


「固まる?」


『今の私とアコンは一心同体。何をするにも一緒。だけど、お互いの考えが致命的にずれたら――動きが固まっちゃうの。心当たりはあるでしょ?』


「……あれか」


 キラーラちゃんとの戦闘で、何度も俺の体は一瞬とはいえ硬直した。

 あれは、そういう理由だったのか。

 って事は、ヘリオス達の動きがぎこちなく見えたのもそれが原因か。


『ある程度なら私からアコンの考えを読んで合わせられる。でも、想いが致命的にずれちゃうと合わせられないの』


 だから――


『覚悟を決めて、アコン。キラーラを真に救うために……キラーラを倒すの』


「俺が……キラーラちゃんを?」


 殺さないようにするとはいえ。

 その体を傷つけ、いためつけ、戦闘不能になってもらう。

 それは、ロリコン紳士として恥ずべき行為だ。


「だけど……」


 俺たちのそんな矜持を押し付けて。

 今も泣いているキラーラちゃんを放置する。

 それも……ロリコン紳士にあるまじき行為だ。


「なら……」


 キラーラちゃんを救える方を選ぶべきだ。

 たとえ、この手で愛するロリ様を殴る事になろうとも。

 それでも……俺はキラーラちゃんにもう泣いて欲しくない。怯えて欲しくない。


 ただ……笑ってて欲しいんだ。

 そのために、キラーラちゃんを倒さなきゃいけないと言うのならば……やってやるっ!



『行こう、アコンッ!!』


「おぅっ!」




 俺は同志であるロリコン紳士達と、キラーラちゃんが戦っている場へと舞い戻る。



「キラーラちゃんっ!」

『キラーラッ!』



『っ――。もう立ち直ったんだ。まったく、それも高位精霊A2様の力ってやつなのかなぁ? でも、今度はさっきみたいに逃がしてあげない。お兄ちゃん達を守る盾はかなり削ったよ?』



 そう言ってキラーラちゃんは辺りを見る。

 そう――既に多くのロリコン紳士達が吹き飛ばされ、切り刻まれ、戦闘不能に陥っている。

 今、まともに動けているのはユーリくらいのものだ。


「ようやく来よったか……老体にばっか働かせよって。いい加減、儂もサクラちゃんも疲れたんじゃぜ。なぁ?」

『そ、そんな事ないもんっ。私、まだまだ頑張れるもん』


 そう強がるサクラちゃんだが、既にユーリと共に満身創痍。

 サクラちゃん自身でもあるはずの桜色の大楯も、その大部分が欠損し、ひび割れている。


「カッカッカッ、サクラちゃんよ。威勢がいいのは良い事だが無理は良くないんじゃぜ? それはそうと……アコン。お主、覚悟はできとるのか? キラーラちゃんを救う方法。もう察しはついとるかもしれんが――」


「分かってる。そこら辺はさっきルーナと済ませたから安心してくれ。俺は……ロリコン紳士として許される事じゃないかしれないが……それでも、キラーラちゃんを殴ってでも止める。キラーラちゃんに守られてるデヴォルはその後だ」


「ほぅ……ルーナ嬢ちゃんと……のぅ。くく、良いパートナーになったではないか」


「言ってろ。ともあれそういう訳だから心配無用だ。ユーリとサクラちゃんは引き続き、他の奴らを守っててくれ」


「……ほぉう。儂とサクラちゃんが他の奴らを守りながらやりくりしてるの気づいとったんか。一応、キラーラちゃんにばれんようにさりげなくやってたつもりだったんじゃがのぅ」


 そう言って目を丸くするユーリ。

 しかし何を言うかと思えば……。

 まったく、そんなの気づくに決まってるだろ。見た感じ、同志出るロリコン紳士達もロリ様も死んでいない。


 キラーラちゃんが無意識に手加減していたのかもしれないが、それ以上にこいつとサクラちゃんの奮闘の賜物だろう。


『ホント……ガラクタのくせによく持ちこたえたね。それも、ただの契約でさ。もっとも、守ってばっかじゃ私には勝てない。貴方だけじゃない。お兄ちゃん達はみーんな私を傷つけるのを躊躇ためらっちゃってさ……本当にバカだよ。なんて甘い……甘すぎて私もお兄ちゃん達に甘えたくなっちゃう。でも……ごめんなさい。私は……デヴォル達には逆らえないんだ』


 ゆっくりと歩を進めるキラーラちゃん。

 やりたくないと、もう嫌だと思いながらもデヴォルが怖いから言う通りにするしかない。

 そんな彼女を、俺は――



「大丈夫だよ。キラーラちゃん。俺が君を救う。少し痛い目に遭ってもらうけど……君を道具やら兵器なんていうクソつまらない役目から解き放ってやる。そして――」

『思うままに笑って……泣いて……人間みたいに――』



「『ありのままの君(あなた)でいてもいい所へと連れてってやる(あげる)っ』」



 ルーナやサクラちゃん、レンカちゃんのように。

 ロリ様が何かを強制されることなく、ただ自由に幸せに生きていくことが出来る国。

 それこそが精霊国家ロリコニア。

 

 やりたくもない事を強制され、泣いている目の前のロリを見逃せるわけもない。

 それこそ、主義には反するが――


「キラーラちゃん。俺は君を……無理やりにでも止めて、幸せにしてやるっ!!」


『――っ。できもしない事を……やれるものならやって見せなよ、雑魚お兄ちゃんっ!!』


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