第36話『対等な関係』
――どうする?
どうする? どうする? どうする?
俺は傷つき、気を失っているルーナを胸に抱きよせて同志達とキラーラちゃんの戦いを後ろで見守っている。
今はなんとか持ちこたえているが、キラーラちゃんの攻撃は激しい。防御など微塵も考えていない無茶苦茶な攻め。そして、だからこそ読みづらい。
対するロリコン紳士たる俺の同志達はそんなキラーラちゃんを積極的に攻めることが出来ていない。
そりゃそうだ。
だってロリコン紳士だもの。例えどんな理由があろうともロリ様に対して手を上げられるはずがない。
数では勝っているが、相手を傷つける事ができない俺達ロリコン紳士。
加えて、後ろで見ていて気付いたがどうも同志達の動きが少しぎこちないような気がする。
ゆえに――このままではいずれ誰かが犠牲になる。
同志であるロリコン紳士が犠牲になるのはまだ許容できる。ロリ様を守って殉職するなら彼らも本望だろう。
だが、ロリ様である精霊が死ぬのはまずい。
それだけで俺達ロリコン紳士は全滅するし、そうなれば誰もロリ様達を……精霊を守れなくなる。
かと言って、打てる手がある訳でもない。
完全に――詰んでいた。
しかし、それで諦められる訳がない。
俺は何か突破口がないか、思考を巡らせ続ける。
キラーラちゃんもサクラちゃんもレンカちゃんもルーナも……この場に居る全てのロリ様がこれ以上傷つかずに済み、大団円を迎える素晴らしい方法。
何かないか……考え続ける。
「ん……んん……」
「――っ。ルーナ? 気が付いたのか?」
「アコ……ン?」
そんな時、気を失っていたルーナが目を覚ました。
「キラーラは……」
そう言ってルーナは辺りを見渡し、視線をロリコン紳士達とキラーラちゃんが戦っている場へと向ける。
必死に精霊達に致命傷を与えないように、そしてキラーラちゃんを傷つけないように苦心しているロリコン紳士達。
そして、そんなロリコン紳士達に泣いて謝りながら斬りかかるキラーラちゃん。
「こんなの……酷い……」
口を手で覆い、その惨状を嘆く心優しきルーナ。
「ああ、酷い。そうだね……本当に酷い」
そう――酷い。
キラーラちゃんと俺達ロリコン紳士達。今はどちらも相手を傷つけたくないと思っているはずなのに。
それなのに武器を取り合っている。
この場でこんなクソな争いを望んでいるのは後ろでずっと笑っている外道なあの男だけだと言うのに……誰もがそれを理解しているのにこの現状から脱することが出来ない。
あの外道さえ排除できれば……。
その為に俺が出来る事。それは――
「酷いから……止めてくるよ」
「……え?」
「ルーナが大丈夫そうで安心した。だから……ちょっとだけ待っててくれ。こんな馬鹿げた事、終わらせてくる。キラーラちゃんを怖がらせてるあいつを……ちょっと懲らしめてくるよ」
そう言って俺はルーナに笑いかけ、立ち上がる。
そうして素早く、そして気づかれないようにキラーラちゃんに守られているデヴォルの元へと――
「――バカッ!!」
――パシィンッ
「はぇ?」
頬が……痛い?
何が起こったのか分からず、その場に立ち尽くす俺。
目の前にはルーナの姿。
いつも静かで、大人しい性格のルーナ。
俺が名付けたその名の通り、月のように優しく辺りを照らしてくれる精霊の女の子。
そんな女の子が――唇をぎゅっと噛みしめながら泣きそうな顔で俺を睨んでいる。
その姿を見てようやく、俺はルーナに頬を叩かれたのだと理解した。
「ルー……ナ?」
「なんで一人でやろうとするの!?」
ぺしっと両手で俺の顔を挟みながら、ルーナは俺の目をまっすぐに見て怒鳴る。
その姿がいつもと違い過ぎて、俺は「えっと」と
「私はアコンの力になりたいのっ!
私はあなたの力になりたいからここまで来た。それなのに……アコンは私の安全ばっかり考えて……そのくせ自分が傷つく事はたくさんして……もう無理なの。見ている事しかできないのは……もう……嫌なの」
「ルーナ……」
「だから……お願いアコン。私に力を貸させて? 私の事を想ってくれるのなら……一緒に居させて? 体の傷なんてどうでもいい。精霊ルーナは、あなたと一緒に戦う事を望むわ」
静かに……まっすぐに……俺の瞳を見ながら問いかけるルーナ。
ああ、それは本当に辛そうで……悲しそうで……不安そうな顔をしていた。
ロリ様を戦いに巻き込むなんて間違っている。
だが、その心を踏みにじるのは……それ以上の蛮行だ。
だからこそ……俺は最後に覚悟を問う事にした。
「多分、また痛い思いをするよ?」
「望むところ」
「辛い思いもするかもしれない」
「後ろでただ見ているよりはずっといいわ」
「俺達ロリコン紳士が死力を尽くして守るけど……もしかしたら死ぬ事だってあるかもしれない」
「そうならないように頑張るわ。でもね……アコン。一緒に戦う以外に、一つだけお願いがあるの」
「なんだい?」
「精霊を……うぅん。私を対等な存在として扱って欲しい。ユーリと話すときみたいに、もっと楽にして欲しいの。私はあっちの……自然体のアコンの方が好きだから」
「……え゛?」
「……ダメ?」
「ぐっ――それは……だね」
卑怯だ。
そんな上目づかいで見られたらどんなお願いだって聞いてしまいたくなる。
しかもなんて可愛らしいお願いなんだ。
今まで俺達はロリ様に対し、お姫様ないし神様相手みたいに接してきたけど、それが嫌だから対等に扱って欲しい?
そんなの……可愛すぎるだろぉぉぉぉぉぉっ!!
「ん……ぬぉぉぉぉぉ」
「? アコン、どうしてそんなに悶えているの? 苦しい? 大丈夫?」
「ヤメテェェッ。今は優しくしないでっ。限界超えてどうにかなっちゃうからっ。深呼吸すれば収まるから」
「?」
首をこてんと可愛らしく傾げ、不思議そうな表情を見せるルーナ。
そんな可愛らしい仕草にもどぎまぎさせられながら、俺は深呼吸して少し自分を落ち着かせる。ひっひっふー。ひっひっふー。
「――ふぅっ」
少し落ち着いた。
さて。
ロリ様に対し、対等に接するなんて畏れ多い。
だけど……それでも……それがルーナの望みなら――
「分かった。えーっと……ユーリと同じ感じってなると少し乱暴な言葉遣いになるけど、これでいいのか?」
「うん♪」
クールロリのルーナはあまり笑わない。
そんなルーナが、今は満面の眩しい笑顔を浮かべている。
あまりにも眩しくて……俺はさっと顔を逸らす。
「うしっ。行くぞルーナ」
「うんっ――契約」
そうして俺とルーナは想いを一つに、キラーラちゃんやデヴォルに再挑戦するのだった――
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