第25話『優しさと甘さ』


「我はロリコン紳士の会、副会長のユーリであるっ! 敵対の意志はない。そちらの指揮官にお取次とりつぎ願いたい」


「え、えっと……精霊のサクラですっ。今回はみんなと話し合いをしたいと思って来ましたっ!」


 ユーリとサクラは二人だけで魔法使いレイラが指揮する軍の元へと訪れた。

 他のロリコン紳士達&精霊は後方に下がっており、異変を察知した時のみ動く算段だ。


「……少し待て」


 そうして二人はしばらく待たされた後、陣地の奥へと招かれた。

 数ある幕舎の中で一際大きな物へと案内される。


 そして、そこにはこの軍の指揮を預かる女であり、かつてユーリの仲間だった魔法使いレイラが居た。

 彼女は足を組みながら二人を出迎えた。


「久しぶりね、ユーリ。随分好き勝手しているみたいじゃない?」


 開口一番、仲良くする気もないと言わんばかりに辛辣な言葉を投げつけるレイラ。

 しかし、ユーリはそれに対し、憮然ぶぜんとした態度で答える。


「今まで大人しくしとったんじゃ。少しハメを外すくらいええじゃろ。そもそも、それを言うなら今代のツマノス王のがよっぽど好き勝手してるんじゃぜ? 儂、もうアレにはついていけぬわ」


「あら? 王様が好き勝手する事の何が悪いの? 王は民草の先導を立つ者。好き勝手に動いて民や臣下に夢を見せるのがお仕事なのよ?

 実際、今回も王様は自国の強化の為に動いているに過ぎない。それは民が安心して暮らせる強い国を生み出そうと言う夢の為。その一歩を王は歩んでいるに過ぎないわ」


「……その夢の為にロリ達を……精霊の少女達を犠牲とし、身勝手に異世界から召喚したアコンを用済みと見るや見捨てようとしたというのかの?」


「言ったでしょう? 王は民草の先導に立つ者。千の民草を救うために百を犠牲にすることも王なら許される。ましてや精霊? 勇者? そんな自国民ですらない奴ら、切り捨てるのは王として当然の判断でしょう?」


 険悪な空気が二人の間に流れる。


「……まぁいいわ。それで、要件は? クルゼリア様の陣地に賊が入り込んだと聞いたけれど、それと関係あるのかしら? それにしても、面白いわよね? 私たちがここに陣を張ったその夜に襲撃が行われるなんて。まるでどこかの誰かが兵糧でも焼きに来たみたい」


「偶然じゃろ」


「くすくす。そうね、証拠もないしそういう事にしておくわ。あぁ、でもこれが貴方たちの作戦なのだとしたらお粗末よね?

 兵糧攻めは戦の基本。けれど、それは時間を稼げる戦に限るわ。見た所、あなたたちは山頂に砦を築けている訳でもない。もっとも、少人数なのだから仕方がないけれどね。

 時間を稼げない状態で私たちの兵糧を焼いたところで、それで私たちがすぐに餓死するわけもない。むしろ、早く決着をつけて略奪しなければならないから兵は必死になるわ。そもそも、ここは自然の多い山。仮に兵糧が全て燃え尽きようとも狩りでもすればしばらく食いつなげることは出来る」


「……そうじゃな」


「あら、ユーリ? 顔色が悪いけれど大丈夫? 何か想定外の事でも起きたのかしら?」


「ふんっ。別になんともしとらんわい。ところで、そろそろ本題に入ってよいか?」


「あぁ、そうね。どうぞ?」




「そいじゃ……ほれ、サクラちゃん。こやつがこの軍の指揮官じゃ。総大将の前にまずこいつを口説き落とさにゃならんぜ?」


 そうしてユーリはサクラをレイラの前に立たせる。

 しかし、それを見たレイラは不機嫌そうに顔を歪めた。


「……なんのつもり、ユーリ?」


「話しかけるのは儂にじゃねぇよいレイラ。今回、そっちと話し合いたいっつったのはそこに居るサクラちゃんじゃ。儂はその付き添い。メインはサクラちゃんじゃぜい」


「そ、そうですっ。私は――」


 そうしてサクラは和平の為に言葉を尽くそうとする。

 しかし、その前にレイラが口を開く。


「くくくくく。あははははははははははははははははっ」


 腹を抱えて笑うレイラ。

 その視線は精霊のサクラへと向けられており。


「ユーリ、あんたも遂にボケが来たみたいねぇ。そこの道具と人間様であるこの私が話し合いですって? ……くだらない。あまりにもくだらなすぎるわ。そこの道具。道具は道具らしく、大人しく人間様に使われてなさいよ。なんなら私が使いつぶしてあげましょうか? くすくす」


「………………え?」


 話し合う余地すらなく、対等としてすら扱ってもらえない。

 化け物としての姿ではなく、普通の少女としての姿なら……密かにそう考えていたサクラの希望を容易く打ち砕くレイラの悪意。


 それでも、サクラは諦めなかった。


「た、確かに私は兵器みたいなものです。でも、私たちには感情があって、話も出来ます。だから、お願いだから話を――」


「兵器みたいなものぉぉぉ? 『みたい』じゃなくて兵器そのものじゃないあんたら化け物は。アンタたち精霊は大人しく私たちに使われていればいいのよ。その力で……私の魔法は更なる高みへと昇る。あ、でもぉ……精霊の中身とか少し調べてみたいとも思っていたのよねぇ。どうかしら兵器。アンタが大人しく私に解剖されてくれるっていうんなら話を聞いてあげてもいいわよ? アハハハハハハハハハッ」


「解剖って……そんなの死んじゃうじゃないですか!?」


「はぁ? 化け物の悪魔が何を言ってるんだか……。狂ったアンタたちはどうせ首と胴を切り離しても死なないんでしょう? どうしても怖いっていうんならしばらくの間だけでも話せるように処置してあげるわよ。ふふ、私ってやっさし~~。くすくすくすくすくす」


 取り付く島もないとはまさにこの事。

 和平を訴えに来たサクラだが、その想いは届かないどころか聞いてすら貰えなかった。


「まったく、くだらない要件もあったものね。あ、でも兵器さんには感謝しといてあげる。そこの狸ジジイを敵地のど真ん中に誘ってくれてあっりがと~~。――――――やりなさい」


 そう言って軽く手を振るレイラ。

 それが合図だったのか、幕舎は外から切り裂かれ、ぞろぞろと武器を構えた兵士たちがユーリ達を包囲した。



「……わし等、一応一国の使者じゃぜ?……その使者に対してこの蛮行……落ちるとこまで落ちたか?」

「ほぇ? ふ、ふぇぇぇぇぇぇぇ!?」



 それらを冷ややかな視線で見るユーリ。

 傍に居るサクラは涙目で囲む兵士と正面のレイラを見渡していた。



「使者ぁ? なーに馬鹿な事を言ってるんだか……。使者ってのはきちんとした国から送られてくるものでしょう? あんたらは国を騙るただの賊じゃない。賊が何か勘違いして国を名乗っちゃった痛い集団。そんな使者もどきをどう扱おうが、諸外国に対していくらでもいい訳がきくわ」


 そうしてレイラが勝ち誇った笑みを浮かべて話す中、兵士たちも下卑た笑みを浮かべていた。

 兵士たちの多くがユーリへと目標を定め、武器を突き出していく。

 残り少数は、消極的ながらも精霊のサクラへと攻撃を加えようとしており。



「子供相手に……クズ以外の何物でもないんじゃぜっ!!」


「ユーリさんっ――」



 自身に向けられる攻撃よりも、サクラに向けられた脅威の排除を優先するユーリ。

 しかし、それもかなり消極的なもの。兵に致命傷を与えないように配慮しながらサクラに向けられる脅威を排除している。


「ぐぼぁっ――」


 しかし、そんな無理な防御でいなせる人数差ではない。

 いかにユーリが阿近の『THE・ロリコン』によって強化されているとはいえ、被弾は免れない。

 奇跡的に致命傷こそ避けているものの、ユーリの体は至る所を斬られ、殴られ、えぐられる。


「あははははははははははははははははっ。どうしたのかしらユーリ。さしものあなたでも耐えるのが精いっぱいという所かしら? あぁ、本当に感謝するわそこの道具。ユーリ一人だけならこの状況でも逃げられたかもしれない。けれど、足手まといのあなたが居るおかげでやりやすいったらないわねぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


「ユーリさん……ごめんなさい。こんな事になるなんて……。お願い。今からでも逃げられるなら……私を置いて――」


「それだけはゼッッッッッタイに断るんじゃぜいっ!! そもそも、ここで逃げてもどうせアコンに殺されっからのう。ロリコン紳士がロリを見捨てて逃げ出すとは何事かってのぅ。カッカカ――」


 無数の攻撃をさばきながら、豪気に笑うユーリ。

 その間、サクラはただ守られるだけだ。


 全てを守りたくて……誰にも痛い思いをさせたくなくて……そうして選んだ道の果て、自身を守ってくれる者が傷ついている。

 ならば、どうしてこの道を選んでしまったのか。


 サクラは知っている。否、とっくに知っていた。

 ユーリが……ロリコン紳士達が自分を決して見捨てない事を。


 同時に、彼らに囲まれて少し楽観的になっていたのかもしれない。

 だからこそ、話し合えばだれとでも理解し合えると思ったのかもしれない。


 しかし、結果は散々な物で、交渉のテーブルについてもらう事すらできなかった。

 善意からの行動とはいえ、自身の選択のせいで大切な人が傷ついている。

 そんなことは――


「絶対に――――――間違ってるっ!!」


 瞬間――サクラとユーリの体が眩い光を放った。



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