第24話『ユーリとサクラ』
「……あれ? 予定より早くね? ヘリオスの方は上手くやってるようじゃが……あんな風に火の手が上がっちゃこっちがやりにくいって話じゃぜ」
副会長のユーリは遠くに上がる火の手を見て呟く。
今回、会長であるアコンは隊を三つに分けた。
一つはヘリオスが率いる王女であるツマノス・クルゼリアが率いる軍に対しての隊。
もう一つはユーリが率いる魔法使いレイラが率いる軍に対しての隊。
最後に、後方に控える大将(会長)のアコンの隊だ。
「燃えてる……みんな、大丈夫かな?」
そんなユーリの隣で心配そうに遠くの炎を見つめるのは精霊のサクラ。
味方の心配……だけではあるまい。その胸中には敵に対する慈悲までもが内在している。
そんなもの、戦場では邪魔にしかならない物だとユーリは分かっているが……その事についてわざわざ言及する気にはなれなかった。
「大丈夫じゃろ。ああ見えてヘリオスは優秀じゃしな。
会長のアコンとサクラちゃんの名のもと、今回の戦では出来るだけ死人を出さぬように心がけろという命令も出ておるが、その枷があったとしても奴が下手を打つ事はないじゃろ。作戦通り、派手に兵糧だけ焼いて事を為してくれるじゃろうよ」
「……うん」
そんなユーリの慰めを聞いても、サクラの表情は晴れなかった。
「浮かない顔じゃな?」
「……私は、争いが嫌い。暴力は……振るいたくない。ただ、みんなと一緒に居るこの日常がずっと続けばいい。そう願ってるだけなの。だから――やっぱり私はきちんと相手と話がしたい。話し合いで済むなら絶対その方がいいもの」
「ほう?」
「きちんと話し合えば分かり合えると思うの。こんな最初から暴力に訴えるだなんて……でも……ううん。ごめんなさい、なんでもないの」
そうしてサクラは笑顔をユーリへと向けた。
しかし、ユーリにはその笑顔が全てを押し殺した悲痛な笑顔にしか見えなかった。
だから――
「のう、サクラちゃん……相手さんと対話でもしてみるか?」
「え?」
「じゃーかーらーっ。向こうと話し合ってみるかって聞いてるんじゃぜ」
「でも……私の我がままでみんなを巻き込む訳には……」
「ふむ。つまり本心では対話したいって事でいいんじゃな?」
それだけ確認したユーリは自分に付いてきてくれたロリコン紳士達に聞く。
「お主ら、サクラちゃんはこう言っとるが……どうする?」
「どうするって……」
「はぁ……何を分かりきったことを聞いてるんですか副会長……」
呆れたように肩をすくめるロリコン紳士達。
彼らはカッと目を見開き、
「「「我らが天使サクラちゃんは自分が思うように動けばいいんですよっ!! 俺たちはその先が地獄だろうが付いていきますっ!!」」」
そう彼らは揃って叫んだ。
「カッカッカ。思った通りお主らバッカじゃのう。馬鹿じゃが……気持ちのいい馬鹿じゃぜい」
そんなロリコン紳士達を馬鹿と称しつつも楽し気に笑うユーリ。
そうしてユーリは再びサクラに向き直った。
「と、いうわけじゃ。迷惑をかける? んなもんいくらでもかけていいんじゃぜ。ちっこいんじゃからもうちょい人に頼れっつー話じゃよ。少なくとも儂はお主ら精霊を自分の孫のように思っとるのだしのぅ」
「で、でも……私の我がままで他の人を振り回すなんていけない事だし……それに私、確かに体は子供みたいに小さいけどこれでも百年くらいは生きてると思うからユーリさんより年上だと思うし……」
「実年齢が何歳だろうが外見年齢と精神年齢がちっこいんじゃからそこら辺はどうでもええわい。長い間生きとったっつってもその大半が一人っきりじゃったんじゃろ? んなもん迷子期間がちょっと長かった子供じゃぜ。迷子の間に成長なんてできっかよ。
それに、アコン
「ろりびーびーえー?」
「うむ、実年齢は高いが、その肉体か精神が幼い者の事をそう言うらしいのぅ。サクラちゃんみたいな長生きな精霊はそういうのじゃな」
「わ、わたし幼くなんてないもんっ」
サクラは自分が幼いと言われて、少しふくれっ面になる。
それは、誰がどう見ても拗ねた子供の姿だった。
「カッカッカッ。『もん』とか言ってる時点で子供なんじゃぜ? それに、幼くていいじゃろ。そっちの方が儂らは好きじゃぜ?」
「そうなの?」
「「「当たり前じゃないですかっ!! ロリは心理ですよっ!!」」」
幼いのが大好きだと言うロリコン紳士達。
「そっか……良かったぁ。私、精霊は成長しないって言われて少し複雑だったの。だって、それってロリコン紳士さん達と一緒に老いていけないって事でしょ? でも、ロリコン紳士さん達は子供の姿の私が好きだって言ってくれてる。それなら私、精霊で良かったって思えるの♪」
満面の笑顔をロリコン紳士達に向けるサクラ。
「「「ぐほぁっ!?」」」
その笑顔に……ロリコン紳士達はハートを撃ち抜かれたように
「……大丈夫?」
「あの……アランさん? いきなりどうしたんですか?」
「ジャンお兄ちゃん。大丈夫?」
そのロリコン紳士達と共に来ていた精霊達が、各々の契約者となるロリコン紳士達の身を案じる。
しかし、蹲った理由を知るユーリが心配する必要はないと告げる事でひとまず混乱は収まる。
その間に、サクラは自分と同じ精霊達に尋ねる。
「えと……みんなはいいのかな? 私の我がままに付き合わされるの……迷惑じゃない?」
そうして尋ねられた精霊達は――
「「「はぁ~~」」」
一斉にため息を吐いた。
「迷惑か迷惑じゃないかって言われれば当然、迷惑です。私はロリコン紳士さん達を除いた人間なんてどうなってもいいと思ってますし。でも……サクラさんは私たちの仲間です。傷ついた私を精一杯元気づけてくれた事……今でも覚えています。だから、私はサクラさんにならいくら迷惑をかけられたって構わない……いえ、もっと迷惑をかけて欲しいって思うんです」
「プレタちゃん……」
「サクラお姉ちゃんがやりたいなら好きにやればいいと思うの~~。私、サクラお姉ちゃんもみんなの事も大好きだからね~~。だから、私にできる事ならなんでもやるよ~~」
「コロロちゃん……」
「サクラは私にあんパン譲ってくれる……。恩返し……する。ど-んと……来い」
「カレンちゃんは……相変わらずだね……」
理由が各々違うが、多くの精霊達がサクラに協力すると言う。
そうして後押しされたサクラは、両拳を握りしめて宣言した。
「みんな……本当にありがとう。よーし、それじゃあ……私、頑張るねっ!!」
かくして、サクラの仲直り大作戦が始まるのだった――
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