第23話『ヘリオスとレンカ』
「おー、居る居る。夜だってのに呑気に休憩しちゃってまぁ……人数差があるからって油断しすぎっしょ。騎士団長が不在だからって不甲斐なさすぎませんかねぇ」
「元騎士団長のアンタがそれ言う?」
「それは言わないお約束……って……んなっ!? レンカちゃん!? い、いえ、先ほどのは言葉の綾と言いますか……」
「あー、はいはい。そういうのいいわよ。っていうか普通に話して頂戴。会長さんや他の精霊とかに対してへりくだるのはどうぞ勝手にって感じだし、気にしないわ。だけど、私に対しては普通にしてなさいよ。私の契約者さん?」
ロリコン紳士の会、幹部のヘリオスと精霊のレンカは山の木々の上から野営するツマノス軍を眺めていた。
その数、情報の通り約五千。
率いているのは王女のツマノス・クルゼリアであるようだった。
「い、いえ、そうは参りません。私はあなたの、いえ、ロリ様全ての盾となれるだけで光栄なのです。普通に話すなど恐れ多い……」
「あっそ。じゃあ、そうね……。普通に話してくれないならアンタに犯された~って会長さんの所に駆け込もうかしら?」
「は、はは。いえいえ、まさか汚れなきロリ様であるレンカちゃんがそんな嘘をつくはずが……」
「ん~~?」←満面の笑顔
「………………冗談……ですよね?」
「さぁ、どうかしら?」
「……はぁ、分かりましたよ。これでいいっすか?」
「……もう少しくだけた感じでもいいのに……」
「いやいや、これが俺っちの普通の話し方っすから。世渡りのコツは強い方に付き続ける事っすよ? 俺っちが会長の側に付いてるのはレンカちゃんみたいなロリが好きってのもあるっすけど、会長がアホみたいに強いってのもあるっすから」
今までの堅苦しい口調を崩すヘリオス。
そんなヘリオスに、レンカは、
「そういう生き方、本当は嫌いなはずなんだけど……そこまであけすけに言われたらそう悪いものじゃないかもって思えるから不思議ね。そういうとこ、少し気に入ったかも」
そう言って笑いかけた。
「いや~~、我らがレンカちゃんにそう言われるとは光栄っすね~~」
「別に、私はそんな大したもんじゃ……」
「へ? いや、何言ってるんすか? レンカちゃんは我らがロリコン紳士の会アンケートで踏まれたい精霊ランキング三連続ナンバー1のロリっすよ?」
「あんたら本当に馬鹿じゃないの!?」
「しーーーーーーっ、いくら離れてるっていってもそんな大声出したら気づかれちゃいますって」
「む、むぐっ」
急いでレンカの口を押さえるヘリオス。
そうしてしばらく静かにするが……敵に変わった動きはない。
どうやらレンカの声は届かなかったようだ。
「ふぅ……危ない危ない。今回は基本隠密っすからね。騒ぐのは最終手段っす」
「ご、ごめんなさい」
「いやいや、いいっすよ~。ただ、物は相談なんすけど……これから俺っちがやる事を他の精霊には内緒にして欲しいんすよね……。そうでなければ会長の所に戻るか、目を瞑ってくれると嬉しいっす」
「へ? あ、あんた、何する気なの?」
「もちろん、サクラちゃんが望む無血での争い決着っすよ? まぁ、話し合いとかはしませんけどね」
「ふぅん……なんか怪しいけど……いいわ。私はサクラみたいな平和主義者でもないしね」
「サクラちゃんは天使っすからね~。あ、でもレンカちゃんにはもちろんレンカちゃんの良さがあるっすよ? その突き放すようでいてそれでもどこか優しさを感じさせる――」
「はいはい。アンタ達ロリコン紳士さん達が私たちを褒めだすと際限がないんだから言わなくていいわよ」
「……なんか扱いが慣れてきたっすね、レンカちゃん」
「お陰様でね。それで? どうするの? ここに居るロリコン紳士さんはあなたを含め10人程度しか居ないみたいだけど……この人数で夜襲でも仕掛けるの?」
「まさか。レンカちゃんたち精霊の力を俺っち達は知らないんでなんとも言えないっすけど、初っ端からそんな無茶はしないっすよ。それに俺っち言ったっすよね? 無血で争いを決着させるって。あれ、敵も味方もみーんな含めてですよ? ……あ。みんなは嘘っす。ちょっぴり家畜さんには犠牲になってもらうっす」
「家畜? えっと、それはどういう……」
「まぁ見てれば分かるっすよ。これから静か~~に敵陣に乗り込むっす。レンカちゃんは――」
「もちろん、付いていくわよ」
そう言ってレンカはヘリオスの手をぎゅっと握る。
「うひょわぁいっ! あのレンカちゃんが自分から俺っちの手を!? もう死んでもいいかもしんねぇっす」
「静かにしないといけないんじゃなかったの!? まったく、私も初めてなんだからもう少し落ち着いてよ……」
そうしてレンカは意識を集中させた。
「――契約」
そして――眩い光が辺りを照らした。
そうして光が治まり――
「これは……
ヘリオスの手には長くしなやかな黒い鞭が握られていた。
『これが……契約。なんだか不思議な感じね』
ヘリオスが特に操作するまでもなく、鞭はうねうねと動いた。どうやらレンカの意志で鞭は動かせるらしい。
「まぁ、性能に関しては後でいいっすね。急がないと――」
『え? ちょっと!?』
そう言ってヘリオスは急いで木を降りて一緒に来ていた仲間の所へ駆けた。
「みんな、急いで契約よろっす。しないならしないで精霊を安全な場所へ避難させてくださいっす」
『え? なに? なんでいきなりそんなに慌ててるの?』
「見てりゃ分かるっすよ……」
そうしてヘリオスを除いたロリコン紳士が同伴していた精霊と契約を行う。
そうして――眩い光が辺りを照らす。
そうして光が治まった後、精霊の全員がその姿を変化させていた。
ある者は契約者の剣となり、またある者は盾、またある者は機動性の高そうな靴となっていた。
そして――野営していたツマノス軍の方から『カンカンッ』と警戒音が響いてきた。
「おいっ! 今のはなんだ!?」
「急いでクルゼリア様に報告を――」
「敵の斥候かもしれん。探せっ!!」
ツマノス国の兵が幾人もこちらに気付いたらしく、怒号が聞こえてきた。
「そんじゃみんな、急いで移動するっすよ~。あ、キース君のその装備、足とか速くなってる感じすか? それなら君にはこれをプレゼントっす。俺が全部やるつもりだったっすけど、君のが効率よさそっす」
「へ? あ、ああ、はい。確かになんだかいつもより体が軽くてどこまでも早く走れそうな……ホルンちゃん、そこの所どうなのかな? ……あ、分からないか、ごめんね?」
敵に見つかったというのに、ヘリオスは焦る様子もなく部下に指示を出していく。
『あの……ヘリオスさん?』
「君は向こう側から陽動として
『誰がお兄ちゃんよっ!? ってそうじゃなくて……どうして敵に見つかったのにそんなに落ち着いているの?』
「そりゃ見つかるのが分かってましたからね」
『分かってたって事は……これも作戦の内なの?』
「……マジで言ってるんすかレンカちゃん? いや、そういう少し抜けた所も可愛いっすけど。この段階で見つかるのはこっちとしても想定外っすよ? でも――」
そうしてヘリオスが答えを言う前に、ツマノス国の見張りが声を張り上げる。
「向こうの林だっ! あそこから連続してまばゆい光が放たれたんだっ」
そうしてヘリオス達はその声を後にして、散会する。
そんな中、ヘリオスは自分と合体しているレンカにだけ聞こえるように告げた。
「――って感じっす。そりゃ夜中にあんだけチカチカ光ったらばれるっすよねぇ」
『……ごめんなさい』
「いやいや、いいっすよ? レンカちゃんも契約が初めてだったんですし、しゃーねぇっす。って訳で、少し早いっすけど作戦開始っすね」
そう言ってヘリオスは闇に紛れてツマノス・クルゼリアの陣地へと入る。
『作戦って……結局何をするの?』
そんなレンカの問いに、ヘリオスは陣地に焚かれていた篝火から火を頂戴しながら答えた。
「それは勿論――兵糧攻めっすよ」
そう言ってヘリオスは持ってきていたいくつかの薬品と一つと一緒に、その火を兵糧が積んである幕舎に投げ込むのだった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます