第22話『戦う意志』
「最終会議だ。この会議が終了した後、すぐに作戦行動開始に移る――ヘリオス」
「はっ。敵はツマノス国。左翼に五千。右翼に五千。後方に一万五千の兵が確認できています。先行している2隊は明日の正午には山の麓へと至るでしょう」
この精霊国家ロリコニアは険しい山々に囲まれた要塞のような国だ。
攻められにくい地形ではあるが、敵は先行している奴らだけでも一万。対するこちらはたったの百。正直、山頂に陣取られるだけで敗北は確定するだろう。
「問題はこちらの少人数でどのようにして敵の侵攻を押さえるか……なんだけど、これについてはほぼ決まってるから後回しにしよう」
「「「異議なし」」」
そう――それについては問題ない。
そもそも、こういう事を想定してこの交通の便が悪すぎる村を拠点に選んだのだ。
その場での戦い方など、とっくに考えている。
なので――今から考えるべきは――
「さて……では諸君は前回の会議を覚えているだろうか? みんな、宿題はやってきたかな? 敵をロリコンにする名案や敵の心を折る方法など考えてきてくれたか?」
「もちろんですよっ」
「俺の考えた案は――」
「いや、それもよりも――」
そうして会議はかつてない程に盛り上がる。
いかにして相手をロリコンにするか、それが叶わなかった場合、どのようにして相手の意志を砕くか。
サクラちゃんの意志に
――そうしてある程度方針が決まったところで――彼女たちは現れた。
「失礼するわよっ!!」
前回の会議の時と同じように、ぞろぞろと精霊達が入室してくる。
先頭は精霊たちのまとめ役の一人となりつつあるレンカちゃん。その少し後に続く形でサクラちゃん、ルーナの三人。
「ツマノス国っていうのが攻めてくるんでしょ? 私たちも協力するわ」
「「「なっ!?」」」
会議の場に居るロリコン紳士達を見渡しながら宣言するレンカちゃん。
周りに居る精霊も決意に満ちた顔をしている。
それに対し、ロリコン紳士達は動揺を露わにしていた。
「ま、待ってくれよレンカちゃんっ! 俺たちは君たちの為に――」
「ま、待てっ。気持ちは分かるが会則第1条を忘れたか!? それに、彼女たちの意志を捻じ曲げるのは……」
「だ、だけどこんな無垢な天使が戦場に出るなんて――」
ロリコン紳士達は大混乱。精霊達の意志を尊重するべきか、彼女たちの身の安全を第一にその意思を捻じ曲げるかで意見が分かれる。
「はぁ……」
分かっていた事だがやはりこうなったか。
仮に俺が事前に精霊たちの考えを公表していたとしても、この混乱は避けられなかっただろう。実際に精霊の口から聞くのと、そうでないのとでは意味が違ってくるしな。
ユーリが事前に俺に精霊の考えを教えてくれたのは会長である俺までもが混乱してしまっては会議自体がもう収拾がつかなくなってしまうからだろう。
さすがはユーリ。我らがお爺ちゃんだ。
というわけで、
「静粛にっ!! 静粛にせよっ! ロリ様の言葉を遮るでないわっ!!」
「「「はっ!!」」」
俺の一喝を受け、同志達が静かになる。
俺までもが精霊の戦うという意志に混乱していたらこうはならなかっただろう。
「さて――精霊達。君たちの協力してくれるという意志。それはとても嬉しい。だが……君たちに何ができる? その小さな拳を握りしめて戦うか? もしくは後方で俺たちの俺たちのサポートに徹してくれるのか? 後者であるならば検討できなくもないが――」
「どっちも違うわ。私たちはあなたたちの隣で戦いたい。戦うロリコン紳士達と一緒に敵をやっつけたいの」
「わ、私も同じ想いです。私の我がままのせいで敵さんをあまり傷つけないように戦う事になったってユーリさんから聞きました。そんな私の我がままでロリコン紳士さん達を振り回して、それを後ろで眺めてるなんてこと、できないもんっ!!」
私も私も――そう言って全ての精霊が戦うと、そう決意を固めている。
隣で戦うのだと。後方支援なんかではなく、隣に立って戦うのだと。そう決意を固めていた。
「私は……アコンの力になりたい。だから、一緒。あなたたちが私たち精霊を守る為に戦うなら……私もあなたたちを守る為に力を振るいたい。そして、その為の力が私たち精霊にはある。
アコンは知ってる……よね? 契約。精霊は人間と契約することで、その身を武器にすることが出来るの。あまり知られていないようだけど、精霊は色んな所で兵器として活用されているわ」
そう宣言したルーナからもたらされる精霊の力。
確かに、俺はその力を知ってる。王様から直々に聞いたし、実践もした。
だけど――
「君たちは……それでいいのか? それはつまり、『自分を武器として使って』と言っているようなものだよ? 何度か言ったように、俺達ロリコン紳士は君たちロリ……精霊がその場に居てくれるだけで幸せなんだ。無理して前線にでなくても――」
「ハッ。そんなのごめんよ。後ろで守られてるだけなんてただの置物じゃない。私は……守られてるだけじゃ嫌なの。少しでもあなた達の力に――ああ、違うわね。これじゃダメ。私は……私自身の心に従って……あなたたちの隣でこの力を振るいたい。
だから――私たちの為を想うなら私たちも戦いに連れて行きなさいっ!!」
思いとどまるように言葉を尽くそうとしたが……それ以上に精霊たちの意志は固いようだ。
それに、レンカちゃんにこう言われたら……その意思を捻じ曲げる事なんて出来ない、いや、したくない。
だから――
「――分かった。俺は精霊が俺たちと共に戦う事に……異論はない」
「か。会長!?」
「会長、それでいいんですか!?」
「こんな可愛らしい天使を戦場に連れて行くなんて……あんた本当にロリコン紳士なのかよっ!?」
「落ち着け、同志達よ。俺はあくまで自分の意見を言っただけだ。それを同志達に強制するつもりはない。そもそも、ロリコン紳士の会において、序列なんてのはそこまで重要なものじゃないからな。大事なのは、会員がロリの事を愛しているかどうか……だ。そして、俺は同志達を信じている。お前たちがどのような選択をしようとも、俺はそれを咎めはしない。それで俺達が割れたとしても、それは仕方がない事だ」
「仕方のない事なの!?」
途中でサクラちゃんの突っ込みが入ったような気がするが……まぁロリ様に俺達ロリコン紳士の矜持は分からないだろうし、申し訳ないがスルーさせてもらう。説明しても分かってもらえないだろうしな。
「だが……俺は思う。精霊達を安全な場所に隠し、戦いに関わらせないのは彼女たちの身の安全を考えるのならば確かに上策だ。だが……俺たちが守るべきは彼女たちの安全だけか? 違うだろう!? 彼女たちの……ロリ達の心も守るべきだろう!? そんなロリ達の心を、ロリコン紳士である俺たちが殺していいのか? それこそさっきレンカちゃんが言ったように、彼女たちを置物にしてしまっていいのか!?」
俺たちが望むのはロリ達が笑って暮らせる理想郷。
争いもなく、ただロリ達が笑っているのを影から永遠に見守っていたい。
そのために必要なのはロリ達の身の安全だけじゃない。ロリ達の心も俺たちは守らなきゃいけないんだっ!!
「儂も会長のアコンに一票じゃ。そもそも、お主らは過保護すぎる。知っとるか? 過保護ってのはつまり拘束なんじゃぜ? お主らはロリを……精霊を愛しすぎるあまり、その自由を奪っとる。それはお主らの本意ではあるまい?」
ニュッと精霊達の後ろから出てきたユーリが俺の意見に賛同する。って居ないと思ったらそんなところに居たのか……。
おそらくだけど、ユーリはこうなる事を見越していて精霊と一緒にこの場に来たのだろう。まったく、食えないおじいちゃんである。
「会長と副会長がそうまで言うなら……」
「いや、しかし――」
「俺は賛成っすよ。精霊と一緒に戦えるなんて光栄っすしね」
「ヘリオス……お前まで」
「ヘリオスまで賛成か……だけどやはり精霊の身の安全を天秤にかけられると……」
会長の俺と副会長のユーリに加え、幹部のヘリオスまでもが精霊が共に戦う事に賛成した。
しかし、それでも己の天秤に従うのが俺達ロリコン紳士の会だ。
ロリの為を想うならば、上の命令に逆らう事も辞さない。まったく、頼りになる奴らだぜっ!
そんな彼らの熱の入った話し合いを気分よく眺める俺。
ツマノス国の兵を迎撃するにしても、まだ時間はある。こっちは兵数が少ない代わりに機動力があるしな。
まぁ、半日以上これが続くようならさすがに介入して。
――――――などと考えていたその時だった。
「はぁ……もうこれ収拾がつかないわね。これやるのは嫌だったけど……仕方ないっか」
レンカちゃんがそう呟くとともに、自身の顔を両手で覆い隠した。
そして――
「ぐすっ……ロリコン紳士さん達……私たちのこと……嫌いなのぉ? 私たちが傍に居ると迷惑だから……一緒に戦ってくれないのかな? うぅぅ」
「「「!?」」」
あの強気なレンカちゃんが……泣いた……だと!?
よっぽどの事がない限り泣いている姿なんて見せないあの強気なレンカちゃんを……俺たちが泣かせてしまったのか!?
「……いや、レンカちゃんよ……。それはあからさま過ぎるじゃろ。いくらこ奴らが底抜けの阿呆でもそれではさすがに――」
「「「嫌いだなんてとんでもないっ!! 大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」
何かユーリが言っていたような気がするが、正直それどころではない。
ユーリを除く会員がレンカちゃんの涙を取り払うべく、精霊達への愛を叫ぶ。
「ほんとに? それじゃあ……一緒に戦ってもいい……よね?」
「「「もちろんですともぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」
「わぁ……ありがとうっ!! ……………………ホントちょろいわね」
かくして、ロリコン紳士である同志達は全員精霊の参戦を認めたのだった。
「そうか……こやつら、底抜けの阿呆どころではなく、そもそも脳みそ入っとらんのじゃな……はぁ」
最後、誰にも聞こえないように天井を仰ぎ見ながらユーリはそう呟くのだった――
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