第21話『精霊達の意志』
「おーい、アコン」
「ん?」
それは深夜の出来事。
自室で敵をロリコンにする108の方法と、ロリ様に二度と逆らえなくする48の方法を考えていた時、ユーリが尋ねてきた。
「こんな夜に珍しいなユーリ。旅をしてたときは誰よりも早寝早起きだったのに」
「なぁに。つい先ほどまで精霊の嬢ちゃんたちに誘われて話しとってな。色々と時間がかかってしもうたぜ。カカカッ――」
「なっ!? こんな深夜までロリ達とお話……だと。それはまさか、パジャマトークというやつか!? そうなのかぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
俺はあまりの羨ましさにユーリに詰め寄るが――
「ええい、落ち着けアコンッ! まったく、お主らがそんなだから儂がこうして骨を折ってるというに。そもそも、精霊にパジャマもクソもないわい。みーんな黒いドレスみたいなの着とったじゃろ? あれ、ルーナ嬢ちゃんがお主の部屋にあったものを見て作ったものなんじゃってよ」
黒いドレス……ああ、ゴスロリ服の事か。
ゴスロリ服……それは俺が一番ロリっ娘に着せたい聖なる衣だ。
もちろんロリっ娘には何を着せても似合うし、可愛いだろう。
だが、俺はゴスロリ服こそがロリ様の魅力を最大限に高める服であると思っている。
さて――
そんな聖なる衣をまとった精霊達をユーリは独り占めしていたというのか?
ふむふむ、なるほどなるほど。
………………ギルティー。
「貴様ぁぁぁっ、ユーーーーーーリィィィィィ――――――ってあれ? 今作った物って言ったか?」
「お、ようやく少しは冷静になれたようじゃの」
ふぅ――少し落ち着こう。
いつのまにか俺はユーリの首元を強引に掴んでいたので、その手をパッと放して話を聞くことにした。
「えーっとだ。あのゴスロリ服ってルーナが出したものなのか?」
「そうじゃぜ。とはいえ、脱いだら消えちまうらしいがの。精霊専用の力といった所じゃなー。じゃが、そこらへんは他の精霊にコツを教えとったから問題なしじゃと思うぜ? たぶん、明日にはみんな自分が好きな服装で出てくるじゃろうよ」
「ほぇぇ。精霊にはそんな便利能力まであるのか」
つまり――いくらでもコスプレさせる事が出来るという訳か。
さすが精霊。どこまでロリコンの夢を叶えてくれると言うのだ!?
「――その様子じゃと、やーっぱり何も知らんかったようだのぅ。お主が一番ルーナ嬢ちゃんと話す機会があっただろうに……。お主は精霊たちの事をなーんにも分かっとらんなぁ」
「なっ!? 馬鹿にするなっ。俺は自分の知っている全精霊のスリーサイズを小数点単位で答えられるくらい彼女たちの事を分かっているぞっ!!」
「いや外見に関してなんも分かっとらんと言ってる訳じゃないんじゃぜ!? 内面をもう少し見ろっつってんじゃよ儂はさぁ。助けられた嬢ちゃんたちが何を思ってるか……お主も含め、多くの同志が分かっておらんじゃろ?」
「いや……そんな事は……」
「ほう、そんな事はないか? じゃあ一応聞くとしとうかの。助けられた嬢ちゃんたちは何を思っておったのか……答えてみせい」
ふむ。助けられた精霊達がどう思ってるか……か。
やはり妥当なところで言えば――
「そりゃあ……まぁ……『助けられて良かった~~』とか『あのお兄さん達きもーい』とか……かな」
「……き、きもい……じゃと? あの精霊の嬢ちゃんたちがそう思っておると、そうお主は思っておったのか?」
「え? そりゃそうだろ。そんなの彼女たちに聞くまでもない。分かりきってる事じゃないか」
そう――あれはこの世界に来る前の事。
俺がどれだけ幼稚園や小学校、中学校に出向き、ロリっ娘たちを警護しても感謝されることはなかった。
それどころか何度も警察のお世話になったし、ロリっ娘本人から冷たい目で『もう近づかないでくれませんか?』と拒絶された事もある。
影でロリっ娘達が俺の事を『気持ち悪い変態のお兄さん』と呼んでいたのも知っている。
だからこそ、間違いなくあの精霊のロリっ娘達も俺を……俺たちの事を『きもい』と思っている。今までの経験上、そう俺は確信しているのだ。
その事をユーリに話したのだが――
「こ、こやつ……こじらせすぎて大変な事になっとる……。いや、無理もないことかもしれんが……」
そうしてユーリは何か小声でぶつぶつと呟いたあと、『まぁよいわっ!』と立ち上がって告げた。
「もう結論から言うぜい? 精霊の嬢ちゃんたちは助けてくれた儂らロリコン紳士に感謝しとるんじゃ。そして、だからこそ恩返ししたいと願うておるのよ」
「感謝……恩返し?」
ユーリが言った事を頭の中で何度か再生する。
えと……感謝?
ストーカーって言いながら石を投げつけたりしてこないの?
それに……恩返し?
そこに存在してくれているだけで俺としては大満足なんだが?
「応よ。そんでもっての? お主らがあまりにも嬢ちゃんたちを神聖視しているから、嬢ちゃんたちは儂らのものを真似た会議をすることになってたぜい」
「会議……だって? 俺達ロリコン紳士がロリ様を神聖視するのは当然だけど、それとロリっ娘たちが会議を行うのになんの関係が? っていうか俺もそれに参加したい。冷たい視線に晒されてもいいからロリ達に挟まれたい」
ロリ達が様々な議論を交わしているのを眺められる位置。
それは想像するだけで最高の環境だった。
「お主……いや、お主らおったら意味ないから参加は無理じゃぜ? ほれ、お主らは精霊の嬢ちゃんたちが言う事ならなんでもかんでも素直に聞いちまうじゃろ?」
「何を当然すぎる事を……。そもそも、それはユーリもだろ? 会則第一条を忘れたわけじゃないだろ?」
ロリコン紳士の会、会則第一条。
我らが信ずるロリの言葉は神の言葉。ゆえに、他の会則を曲げようともロリのあらゆる行いを正当化し、その手助けをするべし。
(ただし、ロリ同士の意見が対立した場合は第三者ロリの意見及び、他の会則を優先する物とする)
俺達ロリコン紳士にとって、ロリの言葉は絶対だ。
そんなロリのお言葉は絶対。素直に聞き入れる以外の選択肢なんてあるわけがない。
「いや、まぁそうなんじゃがな? しかしお主らほどではないぞ? そもそも、儂はお主らと違ってあの子らを神聖視しとるわけではないしの。どっちかと言うと孫を見ている気分で接しているのは知っていよう。じゃから、あまりに無茶な事を言われれば――」
「ユーーーーーーリィィィィィッ!! この……反逆者めっ!! ロリの言葉は絶対だと言うのにそれを断るかもしれぬだと!? ロリコン紳士として恥を知れぃっ!!」
俺は裏切られた気分だった。
傷ついた。
それはもう、あの王様やら王女様やらに裏切られたことなんか比較にならないほどに傷ついた。
信じていたのにっ!! 俺は……ロリコン紳士の仲間として……ユーリを心の底から信じていたのにっ!!
そうして俺はユーリの襟元を強く掴み、彼のロリコン紳士としての
「えぇい
強引に俺の掴んだ手を振りほどくユーリ。
「お主らの言い分はもちろん分かるぞ? 精霊たちはあんな可愛い少女達なのだから守りたい。そう思うのは分かる。じゃが、それはあの子らの事を考えての事か? あの子らが目の前で命を懸けている儂らを見て、『助かって良かったー』なんて呑気に考えているとでも?」
「うん」
ロリコン紳士としてロリを守るのは当然の事。彼女たちが平穏に生きられるだけで俺たちは満足なのだ。
だから、助けられたロリ達も俺たちの事を『キモイ』と蔑みつつも『助かって良かったー』と思っているに違いない。
「お、お主は……。本気でそう思ってるのじゃとしたら、それはあの子らの事をお主が微塵も見ていないっつー事じゃぞ?」
「何を馬鹿な。俺はあの子たちの事を誰よりも見ているつもりだぞっ!! 邪魔にならないようこっそりと物陰で丸三日過ごした事もあるくらいだ」
「それとこれとは話が別……はぁ……まぁそれについてはもうよいわ」
なんだか残念な奴を見るような視線をユーリから感じる。
元の世界でもそんな視線を幾度も向けられたからある程度耐性はあるつもりだ。しかし、同志からそんな視線を向けられるとは……解せぬ。
「とにかく、そんなお主らじゃからこそあの子らは自分たちだけで我らのように話し合いの場を作ったんじゃ。強すぎる発言力を持つ自分達が好き勝手に動くのは良くないと判断してな。彼女たちは彼女たち自身で儂らの力になれるように話し合い、そして横に並び立つつもりじゃ。それが彼女らの今の想いじゃよ」
横に並び立つ?
俺たちが守るべきロリを後ろに匿うのではなく、横に?
「いや、横に並び立つって言ったって……あの子たちは何の力も持たないロリだぞ? それが横に並び立つなんて――」
「精霊の契約――」
「っ――!? それは……まさか――」
精霊は人間との契約することによって強力な武器となる。
成り行きで一回だけルーナと契約したが、あの鎧の力はすごかった気がする(意識が朦朧としてたからきちんと覚えていないけど)
そんな力を使ってまで……ロリ達は俺たちの隣に立って戦いたいと?
「察しの通りよ。あの子らは儂らと契約する事で……兵器として戦う事を選んだ。近々その事を儂らに宣言するじゃろうな」
「何を……馬鹿なっ! ロリ達を兵器として扱うだって!? そんなのロリコン紳士として認められるわけがないだろ!! ユーリ貴様、その場に居たんだろ!? なぜロリ達を止めなかった!? ロリコン紳士としての誇りをどこで落としてきた!? 兵器として戦うなんて……そんな業をロリ達が背負う必要なんかないはずだろうがっ!!」
それは……それだけはロリの頼みでも聞けない。
確かに会則ではロリの頼みは断ってはいけないとある。
しかし、彼女たちを兵器として扱うなんて……それだけは間違っていると断言できる。
そうして俺はユーリに再び掴みかかったが――
「――――――うるっさいわアホゥッ!!」
ユーリも俺と同じように俺の襟元を引っ掴む。
「ロリ達ロリ達と……お前さんはあの子ら一人一人の事をもう少しよぅ見ろっ! あの子らが儂らの力になりたいと望んだんじゃ。それが間違っているじゃと? 誰かの為に力を尽くすことが間違ってるっつーんなら儂らの方だって間違ってるじゃろうがよ」
「それは――だけど、あの子たちはまだ小さくて……」
「背丈はな。じゃが、お主も知っとるはずじゃぞ。あの子らの中には五十年以上生きた精霊も居る。少なくともそういう子はお主より年上よ」
「ぐっ――いや、でもやっぱりロリ達に戦わせるなんて……そんなのは間違ってるだろう?」
「お主の言わんとしている事は分かる。じゃが……それなら逆に、ロリ達の意志を蔑ろにするのは正しいのかのぅ? 戦いたいと、守りたいと願うあの子らの意志を無為にすることは正しいと……ロリクラアコンはそう思うのかぁ!?」
「っ!? そ、それは――」
正しいわけがない。
ロリの意志を捻じ曲げ、自分の理想を押し付けて黙らせる。
ああ、それは……なんて身勝手な行いだろう。
だけど、それならロリ達を兵器として扱う事が正しいとでも?
それも間違っていると俺は思う。
そんな思考のどん詰まりへと直面して、俺は固まる事しかできない。
「ふんっ――」
いつの間にか互いに相手の襟元から手を放していた。
そうして呆然としている俺を、ユーリは突き飛ばしながら言った。
「まぁ、精々悩むがいいわ。悩むのは若者の特権じゃからのぅ。なぁに、心配するな。あの子らの意志を汲んだ上でお主が下す決断なら、儂はそれに付いていくぜい? なにせ、どっちも正しいとは思うからのぅ。悩め悩め、カッカッカッ――」
そう言い残し、ユーリは去っていった。
「俺は――」
そうして一人取り残された俺は彼女たちの意志を汲むべきか、彼女たちを守る事だけを念頭に置くか……迷い続けるのだった――
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