第10話『真の姿』



 突然、俺が連れて来た新参精霊の少女に詰め寄ってきた『ロリロリワールド』の精霊少女。

 彼女は現れるなり、新参精霊の少女に指を突きつけながら言い放った。


「私は認めないわよっ! こんな奴が私たちの仲間だなんて……絶対に認めない」


「レンカちゃん……」


「サクラ、あんたの言いたい事は分かるわ。でも、これは私だけの意志じゃないの。だってこの子、私たちとは根本的に違うじゃない」


「それは……」


 『ロリロリワールド』にて保護している精霊――『レンカ』ちゃん。

 レンカちゃんは決して新参者である少女を認めないと声を荒げる。


 そうしてそんなレンカちゃんを諫めようとするサクラちゃんだが、うまい言葉が浮かんでこないらしい。

 その間にレンカちゃんは新参精霊の少女の襟元を掴み、


「ねぇ、アンタ本当に精霊なのよね?」


「ん……そう。私はせいれ――」


「――そんなの嘘よっ!!」


 俺が連れて来た新参精霊の彼女を、レンカちゃんは精霊として認めない。

 それでも……彼女は退かなかった。


「嘘じゃ……ない。私はあなた達と同じ精霊よ」


「うるさいっ! そんなの認められるわけないじゃないっ。あんたと私たちは違う。だって――あんたは綺麗じゃないっ!!」


 悲鳴のような叫び。



 ――ああ――そうか。考えが足りなかった。

 考えてみればこうなるのは当然の事なのかもしれない。



「私たちの姿を見なさいよっ。この尖った爪……鋭い牙……なによりこの醜い顔よっ。どう見ても化け物じゃないっ。まさに悪魔そのものよっ!」


 そう。

 俺や同志の目から見れば精霊たちはどの子もまさにTHE・精霊とでも言うべき美少女だが、それは能力『ロリコンアイ』によって彼女たちの真の姿が見えているからだ。

 でも、精霊達の視点は違う。


「これが私たちの姿。ええ、そうよ、知ってるわよ。でも、違うのっ! 私たちの何かが訴えてる。こんなのは私じゃない。こんな醜いのは私じゃないって。そうじゃないと自分の姿をここまで嫌うなんてこと、あるわけないでしょ!?」


 彼女たち自身には自分や互いの真の姿は見えない。

 真の姿であるときの記憶はどの精霊もないらしいが、それでも本来の姿と違うのを本能で感じ取っているのか、どの精霊も自分の姿を嫌っている。


「今はロリコン紳士の人たちが私たちを守ってくれてる。でも、間に合わなかった子も居たわ。人間に悪魔だと恐れられて、そのまま殺されちゃった子も居る。そしてなにより……自分自身の姿が嫌で嫌でたまらなくて自分を終わらせてしまった子も居るわ」


 ――レンカちゃんの言う通りだ。

 俺は王様の命で悪魔と呼ばれている精霊たちを捕らえ続けた。

 大人しく従ったのは、そのときは力が足りなかったからというのが一つ。

 もう一つは、捕まえるという形だったとしても迅速に彼女たちを回収するべきだと思ったからだ。

 だからこそ、捕らえた精霊達の見張り役だった騎士団長ヘリオスを同志に引き入れた訳だしな。あいつにロリの素養があって良かった。


 しかし、それだけ急いでも俺たちは全ての精霊を守る事は出来なかった。


「それが私たち『精霊』よ。私たちはお互いに今の姿を憎みながら、同じ境遇の精霊達同士で傷の舐め合いをしてるの。それなのに……あなたは何? その銀の透き通るような髪。綺麗な顔。私たちが望んで止まない物を持っているあなたが精霊? そんなの認められるわけがないじゃないっ。それじゃあ私たちは一体何なのよっ!!」



 同じ精霊だと言うならなんで自分達と同じようなおぞましい外見じゃないのか。

 そう新参精霊の襟を掴み、糾弾するレンカちゃん。


 その言葉に対し、新参精霊の少女は――


「……ごめんなさい。でも……もう大丈夫」


 そう言って、自らの襟を掴み上げるレンカちゃんを抱きしめた。

 そして、二人を中心にまばゆい光が放たれる。


「くっ――」

「きゃっ――」

「おぉ!?」



 その光に『ロリロリワールド』に居た全ての者が驚愕の声を上げる。


 次第に光が収まっていき――


「……え?」


 そこには、ただ呆けているレンカちゃんが居た。

 レンカちゃんは新参精霊に抱かれながらぼうっとしている。


 だが、特に何かが変わった様子はない。

 強いて言えば、レンカちゃんの服装が新参精霊が着ている物と同じゴスロリ服に変わった程度だろうか?


 しかし――


「レ、レンカちゃん!? その姿?」

「うそ……あれがレンカちゃん……なの?」

「あれが……もしかして私たちの……」


 周りに居た精霊の少女たちがざわめいている。

 まさか……。

 いや、おそらくそうなのだろう。


 俺の目には殆ど何も変わっていないように見えるけど……きっと――



「これで……もう大丈夫。これが本当の……あなた」


「え? もしかして……え?」


 ふらふらと新参精霊から離れ、自分の手足をぺたぺたと触るレンカちゃん。

 そうしてよろよろと水場まで歩いていき、彼女は自分の姿を水面に映してみた。


「これが……私? 本当……に?」


 信じられないといわんばかりに水面に映った自分の姿を見つめながらぺたと自分の顔を触るレンカちゃん。

 もう……間違いない。


 俺が連れて来た新参精霊によって……レンカちゃんが元の姿を取り戻したのだ。


「ぐすっ、な……なによ。ロリコン紳士の人たちが言う程……可愛く……ないじゃ……うぅぅ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――」


 そうして――レンカちゃんは自らの身を抱いて泣いた。

 それを為した新参精霊は、そんなレンカちゃんを優しい瞳で眺めた後、他の精霊の全員に告げあ。


「みんな……来て。今更かもしれないけど……もう大丈夫。だからもう……苦しまないで?」



 そんな新参精霊に、他の精霊が殺到するのは当然の話。

 かくして、俺や他のロリコン紳士の会の会員達は列整理やその後の対応に追われるのだった。


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