第40話 白翼落とし ⑥

「シン、早く横になるでしゅ」

「……お見通しか」


 身体が軋む。正直な話をするとあの一撃を撃ってから身体がガタガタだった。


原因は分かっている。【星】のエネルギーがもたらした反動だ。放出した力からしたらほんのわずかだが。ここまでのダメージを受けた。


「うぷっ……」


 シロが強引に宿まで戻さなければあそこで膝をついていただろう。おそらくラウンド卿も気づいていた。


「吐くなら吐いた方が楽になるでしゅ」

「いや、大丈夫だ」

「大丈夫じゃねえでしゅ。あれを日に2発撃ったら死ぬでしゅ。そうじゃなくても意識がなくなるでしゅ」

「……厳しい評価だな」

「こればかりは嘘をつけねえでしゅ」

「一撃限りの隠し玉か」

「本当なら撃つなと言いたいところでしゅ。身の丈を超えた力を扱う奴がみーんな死ぬでしゅ」

「それは困る……、これからあれを切り札にして戦う事になるんだから」

「溜めが長い、振りが遅い、連射もできず、撃ったらそれきりの技をでしゅ?」

「耳が痛いを通り越して出血しそうだ」

「うわぁ!? 本当に出てるでしゅ!?」


 耳から血が出るのは、何度目だろう。姉さんが出した爆音とか、ラァの操作ミスで耳に入った砂糖とかでやったことがある。


「放っておけば血は止まる。そんなに慌てなくて良い」

「……それなら良いでしゅ」

「実際シロの言った事はその通りだ。威力は証明されたが、それ以外があまりにもお粗末」


 その威力だって、ラウンド卿くらいの強者になれば直撃したところで傷がつくかどうか。


 今の俺にできる限界でこれだと思うと先が思いやられる。


「本番までまだ日はあるでしゅ。1日1発の練習で詰めていくしかないでしゅ」

「その通りだ。だが、どうするべきか。何か参考にできるものがあれば良いが」


 姉さんにはあんな手間は要らないし、ラァに至っては系統が違いすぎてなんともならない。


 溜めて撃つ感覚は分かった。その溜めと開放後の反動、当たるまでの遅さを解決しなければならない。


「新しく覚えた鬼火と紫炎にしたって、特に相性が良いわけでは」


 紫炎の運用で覚えたのは力の循環だ。だが、自分で耐えられない量の力を扱っている以上は紫炎を介して循環させたら自分ごと爆裂しかねない。


 なら、自分の外で循環させたならどうだ?


「……これか」

「何か考えついたでしゅ?」

「アルカと【星】の間で力を循環させる。反動を受けるのは解き放つからだ。強い力を纏った刃を維持できるなら問題はない。一度溜めてしまえば後は継続するから撃ちきりにもならない」

「シン、それ何を言ってるか分かってるでしゅ? 例えば今、シロの中に力の流れがあるでしゅ。それに干渉できるでしゅ?」

「ぐっ……それは」

「無理でしゅ。自分の思い通りになるのは自分だけでしゅ。剣だけでも無理なのに、【星】の方にまで手を伸ばすなんて無理無理でしゅ。それに速さはどうするでしゅ」

「……浅はかだったか」


良い考えだと思ったんだがな。


「そうだよな。自分の身体でさえ最初はどうにもならなかったんだ。それを別ものでもやろうだなんてあまりにも難しい。俺にはできない事だったか」


 剣が自分と一体化するほどになればできるのかもしれないが。それはもう剣豪とか剣聖の話だ。俺はそこまでにはなれない。天賦、天稟がない。


 悔しいな。


「ん?」


 剣と。


 自分が。


 一体化?


 アルカと俺が一体化?


 そもそも剣のアルカは神樹鋼だけで作っていない。アルカの枝と。


 俺の腕から作った合金だ。


 桜腕だってもはや自分の腕だ。


 なら、アルカと俺の境界なんて無いに等しいだろう。


 腕を。

 

 手を。


 使うように。


 アルカを使う。


 できないわけがない。


「そうか、今までは俺の意識がなかったから。分からなかったのか、俺とアルカは同じだった」

「目が怖いでしゅ。大丈夫でしゅ?」


 良いとこなんだから茶化さないで欲しい。


「やれる。決行までにものにするぞ」

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