第39話 白翼落とし ⑤

「は、はは」


 笑いが口からこぼれる。


 信じられない。


 俺があの白盾を割った。


 俺だけの力じゃないにしてもだ。


「やったぞ……」

「素晴らしい一撃だった。あれに耐えられるものはそうはいない。だが」

「分かってます。強い一撃がある事と、それを当てられるかは別の話」


 そうだ。溜めて溜めて撃つ一撃が強いのは最低限の条件。あとはそれをいかに素早く、いかに使いやすく運用するか。


「っ……」


 それが問題だ。今のところは解決策を見出せないが、これから考えなければならない。


「ほう、余計な事を言ったようだ。今回は誘導はこちらでやる。心配はいらない。これからも研鑽を続けると良い」

「ありがとうございます。そういえば、盾はどうなさるので?」

「ん? ああ、それなら問題はない」


ラウンド卿が割れた盾をひょいとつまむと、霧散した。


 どういうことだ?


「消えた?」

「消えてはいない。私のもとに戻っただけだ。言ってしまえば白盾は私の一部でね。使いやすいように盾の形で出現させているにすぎない」

「それは……」


 白盾とはつまり。


「ラウンド卿の身体こそが真の白盾なのですね」

「そういう事だ。だからこの通り」


 何枚もの白盾、大きなもの小さなもの、厚いもの薄いもの、様々な盾が現れた。


「特に損失はない。気にしなくても良い」

「ラウンド卿。一つだけ質問をさせていただいてもよろしいでしょうか」

「できる限り答えよう」

「さっきの一撃をラウンド卿に当てたら、どうなりますか」

「……難しい質問だな。時と場合によるが、もしかしたら血が出るかもしれない」


 致命傷には程遠いと。


 俺が割った白盾が弱いという事はないのだろう。だが、それはラウンド卿にとっては代えのきく一枚に過ぎないというだけだ。


「分かりました。不躾な質問申し訳ありません」

「構わないよ。若人の先導は先達の役割だからね」


 なんて厚い壁だ。


「不躾ついでにもう一つ良いでしょうか」

「なんだね?」

「いつかその白盾に挑んでもよろしいでしょうか」

「いつでも来なさい。門はいつでも開けておこう」


 眩しい笑顔で答えられたか。根っからの武人らしい。


「そうだな……」


 考える仕草、何かあるらしい。


「こちらだけ見せてもらったのは公平ではない。私も見せよう、一度だけしかやらないからよく見ておくように」


 さっきよりも大きく厚い白盾が置かれる。


「これが私の居る所だ。追ってきなさい」


 無造作に打ち出された拳が、その形のままに盾をくりぬいた。


 人体など、もはや空気と変わらないだろう。そんな威力の攻撃をこともなげに、力みもなく、気負いもなく。


「しかと拝見しました」


 あまりにも違う。


「同じことができるようになれとは言わないが、これくらいの気軽さで同じ威力を出す事が必要だ。私と戦いをしたいと言うのならこれくらいはしてもらおう」

「ええ、やって見せますとも」

「その意気だ。待っているぞ」


 固く握手を交わす。


「むさいでしゅ。なんか疲れたからもう休むでしゅ」


 シロ……もうちょっとこう言い方というか。

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