第38話 白翼落とし ④

「それで、今日はどうするでしゅ?」

「とりあえずは限界を知るところだな。アルカが耐えられるのはどこまでかを知らないといけない」


流石にこの【星】全てを受け入れるまではいかないだろう、3割くらいまでを目標としてやりたい。


万が一とはいえアルカが破損するような事はあってはならない。そこは慎重にやらなければ。


「ふむ、それならば私の力が必要になるな」


 背後から声。


「ラウンド卿。音もなく背後に立つのはおやめください」

「少し気になったものでね。来てしまった。順調かね? 昨日は姉君とやり合ったようだが」


 流石に筒抜けか。野放しという事は無いと思ってはいた。


「問題はありません。これから調整をする予定です」

「ほほう、それは良い。であればこれを貸し出そう、なに遠慮はいらない」


 ラウンド卿が地面に突き刺すようにして置いたのは白く丸い盾だった。


 ただそれだけだというのに、なんだこの威圧感は。まるで城壁を前にしているかのような。明らかに普通の盾ではない。


 しかも出してきたのがラウンド卿となれば。それはもう一つしかない。


「……白盾ですか」

「知っていたか。その通り、我が通り名が示す白盾そのものだ。これを割れるほどであればブランカもまず落ちる」

「良いのですか?」


 これが割れてしまった場合、それはラウンド卿の盾が破られた事を意味しており、それはただ単純に防具が壊れた事以上の事件になる。


それでも良いのか? と問うている。


「問題ない。遠慮なくやりたまえ。できればだがね」


 動じないか。それでこそ、という事なのだろうか。


「ではお言葉通り遠慮なく。この白盾を割って見せましょう」


 もとよりそれくらいはできなければ困るのだ。俺が目指すのはもっと先だ。姉さんやラァと並び立つんだ。


「楽しみだよ。それが割れたところは見たことがないんだ」


 値踏み6割、期待4割というところだ。


「オーダー、力をアルカに」


【星】からの力をアルカに流し込む。


「2度目だが、大きくなるのは慣れないな」


 アルカが大きく太くなっていく。本来であればとても持てない大きさだが、重さはまるで変わらない。


「っ!?」


 異変が起きたのは【星】の力を1割ほど入れた時だった。


「逆に細くなっている……?」


 膨張から収束に転じたという事か? どうしてそのようになったのかはまるで分からないが、まだまだ容量に余裕はありそうだ。


「これで、3割だ」


 大木ほどもあった太さがもはや、いつもの大きさとほとんど変わらないほどに引き絞られている。光沢が強くなり、今にも弾けそうな力を感じる。


「ここから、紫炎を乗せる」


 今の自分にできる最大を。


「ラウンド卿。お見せしましょう、これが白翼を落とす一撃」


 力の収束が行われたが、振り方は変わらない。いつも通りに振るだけだ。


 それだけ。


 それだけなのに。


 なんだこの緊張感は。


 この一撃を放ってしまえば、もう戻れない。


 そんな確信がある。


 きっとこれが決別の一撃になる。


 今までの自分との。


「うぉおおおおおおおおお!!!!」


 声とともに。


 白盾にアルカを叩きつけた。


「…………」


 手応えはない。


 周囲に破壊の余波はない。


「そうか、そうか……」


 ラウンド卿の声がする。


「お前の目は正しかったようだぞフギン」

「当たり前でしゅ」


 視線をあげる。


「名を聞かぬと思っていたら、ビクトリウスの秘密兵器だったという事か。シン・ビクトリウス」


 その先には。


「貴殿が初めてだよ」


 二つに割れた白盾があった。


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